2020年7月28日火曜日

【実測シリーズ】せん断ひずみによる、動的粘弾性の測定


以前、
【実測シリーズ】コロナ自粛期間中 速報的 液膜粘弾性の測定
では、液膜の動的粘弾性の測定の実施例について、投稿をいたしました。

掲載しているデータは、マランゴニ効果、ギブス弾性力による、現象面視点の説明
からは、理にかなっているのでは、と、まとめました。

しかし、液膜を直接、延伸・収縮させる動作から、動的粘弾性の測定原理を利用し、
動的粘弾性パラメータを得て、解析、という実例が見つからないため、このデータの
妥当性が、よくわからないところはあります。

動的粘弾性の測定原理ついては、
粘弾性について6)_動的粘弾性の測定原理
をご参照ください。

このページでも解説している通り、応力とひずみ、両正弦波の振幅の比と、位相の差
が得られれば、動的粘弾性の測定、解析は可能です。

あるデータ範囲において、二つの波形それぞれの振幅値を検出し、その比をとって
複素弾性率を解析することは、システムとして、さほど難しいことではありません。

問題は、位相差の正しい測定と、その検証ではないかと思います。

動的粘弾性測定器は、主に、荷重(力)、位置の二つのセンシングデータを取得し、
後は、ほぼすべて、計算のみで成立しています。

システムは、入力されたセンシングデータを順番に処理しますので、ビット化された
二つの波形データは、交互に(必ずしも、一周期ごと、という意味ではありません)、
波形解析のために、蓄えられていくということになります。

あくまでも、二つのデータを交互に入力されることになりますので、二つのセンサ
固有の動作周期による遅延、A/Dコンバートの時間など、時間差を生む要因を、
物性以外で、システムに起因したものをいくつか思いつきます。

装置の動作は、メカニカルですし、例えば、データ入力のサンプリング周期を把握
することも可能ですので、数理的に補正することは可能です。

このように、「問題ないであろう」、というところまで持っていくことは可能と考え
ますが、
レオロジー的には、完全粘性体、完全弾性体というのはない、というように、例えば、
位相差が0° 、または、位相差が90° であることが担保されている、標準物というもの
が存在しませんので、実地的に検証することが基本的にはできません。

また、この実地的な検証は、動的粘弾性の動作周波数を変化させ、確認したいところ
ですが、
例えば、ある程度、厳密性を許容し、ニュートン流体とされる物体(位相差 ≒ 90°)
を用い、検証したとしても、高周波数域、つまり短緩和時間領域で、ニュートン流体
である物体は、えてして、低粘度です。

動的粘弾性測定機器にとって、低粘度の物体を、高周波で測定することは、条件として
苦手な方向です。
ここでまた不確定要素、または、その苦手要素を数理的に解消するために、補正する
などの必要性が出てくるため、気色悪い感じになってきます。

以上は、単なる開発上の苦労話として、厳密な話をしていますが、実際には、この
ようなことをさしおいても、動的粘弾性測定器は、非常に有用で、興味深いデータを
与えてくれますので、ある程度、「このようなものだと」気楽に使うのが、良いように
思えます。


ようやく、本題に戻りたいと思います。

【実測シリーズ】コロナ自粛期間中 速報的 液膜粘弾性の測定
では、液膜の動的粘弾性の測定の実施例を紹介しましたが、現象的な観点では、妥当
に思えましたが、前例が見当たらないことや、システムの信頼性を検証していません
でしたので、測定結果の妥当性がよくわかりませんでした。

今回、同じシステムを用い、せん断ひずみによる動的粘弾性測定に応用しました。

ここで、粘度値が既知で、ニュートン流体とされている、シリコーンオイルを用い、
・位相差が90° 付近で検出されるのか
・複素粘度(動的粘弾性測定から得られる粘度値)が、基準値に対し妥当か
について検証を行ってみました。

まず、せん断ひずみについては、こちらをご参照ください。
粘弾性について7)_伸長粘度はなぜ3倍? ~その1~_せん断ひずみと伸長ひずみ
一般的な、粘度計、動的粘弾性測定器で採用されている、ひずみ形態です。

せん断ひずみとは、以下のような立方体要素を、互い違いにずらした時の変形です。


粘度測定では、どこまでもずらし続けていくという格好になりますが、動的粘弾性の
測定では、下図のように、


立方体形状の状態を原点とし、正に、負に、対照的に振動させ、絶対値として、
ひずみ量、応力を得ます。
なお、動的粘弾性では、
・振動周波数を固定し、振幅の大きさを変化(通常は、小から大へ)
・振幅の大きさを固定し、振動周波数を変化
させて、それぞれの応答特性を得て、解析するなどします。


以下に、振幅の大きさ(ひずみ量)を変化させたときの結果を、示します。


3種のシリコーンオイル、以下の粘度値のものを使用しました。

  青:5 Pa・s
  赤:1 Pa・s
  緑:0.3 Pa・s

低ひずみ量域では、グラフが平坦でないことがわかりますが、変位、荷重(力)が、
微小、微弱なため、装置のセンシング能力に原因があるものと思います。
この辺は、まだブラッシュアップの余地があるように思います。

ひずみ量が、ある程度大きくなり、データが安定している領域では、位相差は、
概ね90° 付近で平坦性を示しているかと思います。


次に、ひずみ量を固定し、周波数のみを変化させて、測定した結果を示します。


ここでも、3種のシリコーンオイル、以下の粘度値のものを使用しました。

  青:5 Pa・s
  赤:1 Pa・s
  緑:0.3 Pa・s

ここで縦軸は、複素粘度で、動的粘弾性の測定から得られる、粘度値です。
複素粘度は、緩和領域では、いわゆる通常の回転式粘度計によるせん断粘度と、同じ
値を示します。

ちなみに、この緩和領域では、角周波数とせん断速度は、等価であるという、
コックス-メルツの経験則があります。
非ニュートン流体を測定したとき、粘度低下する程度に高せん断速度領域の、せん断
粘度値に、複素粘度は合致しない、というように言いかえられます。

この結果では、複素粘度が角周波数に対して一定で、ニュートン流体であることを
示しており、粘度値も、それぞれ、基準値と同じ値を示しています。

複素粘度は、複素弾性率を、周波数[Hz] × 2π で割り算して得られます。 周波数の
計測が正しいとして、複素粘度が妥当な値であれば、複素弾性率も妥当であると言え
ます。

概ねニュートン流体といってよい、今回使用した、シリコーンオイルの、ひずみ依存
測定では、位相差が、90° 付近の値が出ていることも確認できました。

今回、せん断ひずみ用の治具は、急造したものを使用したり、
低ひずみ領域のセンシング能力、をはじめとして、
システムとして、まだまだブラッシュアップの課題はありますが、とりあえず、今回は、
まずまず、妥当な測定結果が得られたものと考えています。

また、複素弾性率と、位相差から計算される、貯蔵弾性率も、損失弾性率も、まずまず
妥当な結果になるものと、判断できます。

ちなみに、商品情報によれば、今回使用したシリコーンオイルは、高粘度タイプのもの
ほど、シアシニング特性(高せん断速度で、粘度低下する)が出る傾向にあるよう
なので、厳密には非ニュートン流体といえます。
そのため、十分なシアシニングが起きない、低せん断速度、または低ひずみ領域では、
貯蔵弾性率成分が、まったくないとは言えない、という点に注意が必要と思います。


今回の、せん断ひずみによる粘弾性測定の結果も踏まえまして、
【実測シリーズ】コロナ自粛期間中 速報的 液膜粘弾性の測定
での、液膜の動的粘弾性の測定の実施例について、再評価もいただければ幸いです。

今回、見えてきた課題もブラッシュアップしつつ、多機能で手軽に使用できる、
動的粘弾性測定システムとして、商品紹介できるまで、開発を継続したいと思います。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


2020年7月27日月曜日

粘弾性について6)_動的粘弾性の測定原理


長らく先送りしてきた、動的粘弾性の測定原理について解説したいと思います。

前回、【実測シリーズ】コロナ自粛期間中 速報的 液膜粘弾性の測定 として、
動的粘弾性の実測例を紹介いたしました。

動的粘弾性の測定について、あまりよくご存じのない方には、内容があまりよく
伝わらなかったのではないかと思います。

本来、動的粘弾性の測定原理については、もう少し早い段階で、この内容を投稿
したいと考えておりましたが、遅まきながら、ようやく投稿にこぎつけました。


では、本題に移りたいと思います。


液体の流動抵抗は、粘性に起因し、粘度を測定することで、その抵抗の度合いを
調べることができます。
固体のかたさは、弾性に起因し、弾性率を測定することで、そのかたさを調べる
ことができます。

粘度にしても、弾性率にしても、ある物体のかたさ(的なもの)をあらわしている
ことに違いはありません。

ところが、完全な流体(粘性体)、完全な固体(弾性体)というのは、厳密には存在
せず、物体は、大なり小なり、粘性と弾性の要素をあわせもっている、粘弾性体です。

そのため、粘弾性の測定が重要になります。
粘弾性とは、さも一つの物性のように思えますが、単独で存在する物性ではないので、
ある一つの測定から、複合的に解析され、評価をします。

粘弾性は、横軸、縦軸に成分分けし、平面的に評価するという特徴をもとに、
粘弾性について1)_学校の定期試験を例にとった説明
粘弾性について2)_固体はかたい、液体はやわらかい?
にて、概念的な説明を行いました。



では、ここから具体的な説明に入りたいと思います。

まず、図1.をご覧ください。

図1.

滑車を用いて、ピストンを往復運動させている時のアニメーションです。
滑車が等速で円運動をしているとき、ピストンの位置を記録していくと、正弦波形
が得られます。
また、滑車の回転角度と、正弦波の横軸を対比させると、正弦波一周期は、360°
であることがわかります。

次にフックのバネ試験を、分銅の重さを連続的に変化させたとして、正弦振動で
行ってみたときのイメージが、以下、図2.になります。

図2.

刻々と変化する、ばねの位置(伸び)と、分銅の重さを連続的に記録すると、二つの
正弦波形が得られました。

二つの波形のピークの値、「重さ」を「伸び」で割り算すれば、弾性率が得られ、
振動をさせていようが何だろうが、本質的にはフックのバネ試験となんら変わらない
ことがわかります。

フックの法則に従い、重さと、伸びは比例関係ですので、ピークの値に限らず、同じ
タイミングどこでも二つの値の比をとれば弾性率が得られます。

実際に、縦軸に重さ、横軸に伸び、の関係であらわたしたのが、以下、図3.です。

図3.

このグラフの傾きが弾性率をあらわすことから、やはり、フックのバネ試験と、
何ら変わらないことがわかります。


次に、理想粘性体の場合の、荷重(力)と位置の関係性を、図4.に示します。

図4.

理想弾性体の時と異なり、力の波形が、位置波形に、90° 先行していることがわかり
ます。

力が、正または負で、最大値をとっているとき、位置波形は、原点位置にあります。
逆に、位置が、正または負で、最大の位置にあるとき、力は原点ライン上にあり、
つまり、力がゼロ、発生していないことになります。

ここで、ニュートンの粘性法則を思い出してください。

    [ 力 = 粘度 × 速度 ]

でした。
力は、速度に比例します。

ピストンは、原点ラインを通過するとき、最大の速度にあり、通過後、正、または
負のピーク位置にむかって減速し、折り返しとなるピーク地点では、瞬間的に速度
はゼロになります。

つまり、力波形は、ピストン位置の、速度状態に対応をしており、ニュートンの粘性
法則にしたがっていることになります。

位置を、時間について微分すると、速度になりますが、正弦波を微分すると、90°
シフトするというのは、なんとなく記憶にあるのではないかと思います。
数学的にも、上述のように現象論的にも、以上のように説明できます。


図3.では、同じタイミングで得られた、両波形の値の比をとれば、弾性率になる
ことを説明しました。
これは、フックのバネ試験と何ら変わらないと申しましたが、とりわけ、正弦振動
で測定を行った場合は、「複素弾性率」と呼びます。

次に、二つの正弦波形の位相の差に着目します。
位相差が0° の時、完全弾性体。
位相差が90° の時、完全粘性体。
0~90° の間にある時、粘弾性体であるということになります。

動的粘弾性の測定では、複素弾性率による、かたさ情報だけでなく、位相差の値から、
どの程度、弾性寄りなのか、粘性寄りなのか、性質の情報も与えてくれます。


ここまでは、三角関数の観点で説明をしてきたことになるのですが、オイラーの式
を用いることで、複素解析に結びつけることができます。
(ブログの目的、紙面の制限、筆者の説明能力、などの制約のため、オイラーの式に
ついてはふれません)

以下、図5.は、粘弾性について2)_固体はかたい、液体はやわらかい? の説明の
中で用いた評価例ですが、オイラーの式により、複素平面上に表すことができる
ようになります。

図5.

ここで、二つの正弦波の比である、複素弾性率は、かたさ情報を、ベクトルの長さ
としてあらわされます。
位相差は、原点位置における角度として、ベクトルの向きを決めています。
これにより、複素弾性率は、縦成分と横成分に成分分けすることができます。

縦軸は、損失弾性率といい、粘性成分(位相差90° の成分)を示し、虚数単位を
とります。
横軸は、貯蔵弾性率といい、弾性成分(位相差0° の成分)をしめし、実数です。


いかがでしたでしょうか。
複素数、虚数が出てくると、無条件で、「ややこしい」と思われてしまう面もある
ように思います。
実際には、かたさ(弾性率)を、単に、横・縦成分に、2成分分けしているのだな、
と理解すれば十分の測定・評価方法であると思います。


前回の、【実測シリーズ】コロナ自粛期間中 速報的 液膜粘弾性の測定 で紹介した
システムを用い、せん断ひずみによる動的粘弾性の測定への応用検証も、はじめて
おります。

次回、【実測シリーズ】として、ご紹介できればと考えています。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


2020年5月15日金曜日

【実測シリーズ】コロナ自粛期間中 速報的 液膜粘弾性の測定


前回の投稿から、だいぶん間があいてしまいました。

昨今のコロナ自粛期間中、いかがお過ごしでしょうか。


世の中、今回を機に、コロナ終了後も、在宅ワークの流れは促進されていくのかも
しれませんが、業務や時間効率が上がるのであれば、どんどんそのようになっていけば
良いのかなと思います。

私どもは、もともと在宅ワークの方式をとっていますが、特に不便を感じたことは
ありません。

ただ、今回のような自粛、緊急事態宣言下で、テンポラリーに在宅ワークを行っている
方は、お客様や、パートナーなどが稼働していなければ、やることもなくなってきて
しまうのではないかと想像します。

このような時は、「いつかやろう」、「ダメもとでやってみたかったこと」など、
最低の成果でもプラスマイナスゼロ、最悪でも会社やご自身に、損害を与えない結果
にしかならないようなことをやってみるのはいかがかと思いました。

申しました通り、もともと在宅ワークということもあり、ここまでの間、取り立てて
仕事のペースが変わることはなかったのですが、自粛の気分を変えたいと思い、
「いつかやろう」と考えていたこととして、液膜粘弾性測定装置の試作にトライして
みました。



前置きが長くなりましたが、今回のタイトルに戻りたいと思います。


当ブログでは、これまで、「粘弾性」に関係する内容がほとんどでした。

粘弾性については、主に、概念的なお話をさせていただきました。

粘弾性測定の実測については、本来は粘弾性の測定原理まで到達した後で投稿する、
という中期計画でした。

  ブログをかなりサボってしまっていたこと。
  「自粛の気分転換」。

これらはさることながら、
「液膜粘弾性の実測」については、なかなか目にすることはないはず、と思い、
今回、あげさせていただくことにしました。


いきなり測定データを示します。


白抜きのドットが貯蔵(バネ弾性)成分。
黒塗りのドットが損失(粘性)成分です。

バネ弾性、粘性成分については、よろしければ、こちらをどうぞ。
粘弾性について1)_学校の定期試験を例にとった説明
粘弾性について2)_固体はかたい、液体はやわらかい?

横軸は、周波数で、対数軸になっています。

食器用洗剤水溶液(確実にミセル濃度以上、正確な濃度は不明)の液(シャボン)膜
を作り、その膜をある方法で、ひっぱったり、縮めたりという動作を「正弦周期的」
に繰り返しました。

その際、膜の長さと、力の変化を、それぞれ正弦波のデータとして記録します。

変形の大きさと、力の関係から、弾性率が得られることを、
粘弾性について6)_伸長粘度はなぜ3倍? ~その1~_せん断ひずみと伸長ひずみ
で説明をいたしました。

これらの関係を正弦波で得ると、かたさである弾性率を、貯蔵成分と損失成分に分ける
ことができます。

この粘弾性の測定原理については、いずれの機会に投稿したいと思います。


往復運動の速度を上げていくと、特に貯蔵(バネ弾性)成分の顕著な上昇がみられます。


ミセル濃度を超える液膜には、洗剤に含まれる界面活性剤分子が、密に吸着し配向
しています。

界面活性剤の吸着密度に応じ、表面張力は低下します。

一方で、液膜を引き延ばし、表面積が増加すると、密であった界面活性剤が瞬間的
には「疎」の状態になりますので、液膜の表面では、界面活性剤濃度が低くなり、
瞬間的に表面張力は上昇します。
これは「ギブス弾性力」で説明されます。

液膜を引っ張ると、表面積を最小にして安定化をはかろうとする表面張力の作用に
より、縮まろうとしますので、表面張力はバネ弾性のように働きます。

以下、ウィキペディアで紹介されている動画を見ていただくと、イメージがよくつかめます。
https://en.wikipedia.org/wiki/Surface_tension

いっぽうで、「疎」になった隙間には、すぐに界面活性剤が移動してきて、密の状態
になるため、表面張力を低下させます。
このメカニズムを「マランゴニ効果」とよびます。

高周波数領域では、液膜の表面積の増加に、界面活性剤の移動がおいつかないため、
弾性率が上昇し、
周波数が低い領域では、界面活性剤の移動がじゅうぶんにおいつくため、弾性率は
上昇することなく、安定していると、グラフからは思えます。

低周波数領域では、弾性成分が粘性成分を上回り、並行で平坦なグラフになって
いますが、配向した界面活性剤が、構造として液膜の安定に寄与しているのでは
ないかと想像します。


いかがでしょうか。


今回、試験を行ってみて、例えば、

  起泡性、泡安定性、フォーミング、テクスチャーなどを検討する際の、液膜物性
  の評価。
  目的に合わせた材料設計時の、界面活性剤の選定。

などに、実用性のある測定方法になるのではないかと思いました。

試作機をブラッシュアップしながら、色々な液体を試してみたいというように思い
ました。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


2019年9月15日日曜日

粘弾性について8)_伸長粘度はなぜ3倍? ~その2~_伸長ひずみを掘り下げる


前回は、ひずみの形態として、せん断ひずみと、伸長ひずみの定義について解説を
しました。

今回は、伸長ひずみについて、さらに掘り下げてみたいと思います。


まず、伸長ひずみの仲間を紹介したいと思います。
前回のブログでは、一軸延伸による伸長ひずみを説明しました。


この図から、なにかお気づきになりませんでしょうか。

伸長ひずみでは、引っ張ったり、縮めたりという「主軸」の変化に連動し、他の
軸も、伸びる、または、縮むといった変化が起きています。

ひずみが大きくなっても、物体の体積は一定ですから、どこかが伸びたら、どこかが
縮む、当然といえば当然ですね。
このことは、伸長ひずみを理解するうえで、大変重要なポイントになります。

例えば、下図のような物体に、一軸延伸による伸長ひずみを与えます。


体積が一定のとき、引っ張り長さ(L)の変化に対する、幅(D)は以下のように変化
します。
体積は、L × D^2 で、どこまで伸ばしても一定のはずです。
幅は、二乗で効いたDを、平方根で割り戻すことになるので、Lが大きくなるほど
変化が小さくなります。


伸長ひずみの計算のおさらいと、「ポアソン比」について説明します。


ここで、前回のブログのとおり、伸長ひずみ量は、(l - l0) / l0 でしたね。
伸長ひずみ量のシンボルを、ε とします。

幅方向のひずみ量も、同じように、(D - D0) / D0 で求めることにします。
幅方向の圧縮ひずみ量のシンボルを、ε' とします。

上記、引っ張り長さと、幅の関係を示したグラフを、ε'と、ε に置き換えたのが、
下図です。
なお、ε' は、収縮によって生じるひずみのため、マイナスの値をとりますが、
符号は気にする必要はなく、絶対値であつかえば良いです。


ひずみ量が小さい領域では、グラフは、ほぼ正比例であり、ε' は、ε の、ほぼ0.5倍
であることがわかります。

ε' / ε でとった比を、「ポアソン比」といいます。

・変形時に体積変化が伴わず、
・小ひずみ量 領域においては、
ポアソン比 = 0.5 であるとして、

       ε' = 0.5ε
       ε  = 2ε'

で、お互いに換算できるということになります。
幅方向のひずみ量から、延伸方向の伸長ひずみ量に換算できる、ということは、
伸長ひずみによる粘度や弾性率を測定するときに、実は、不可欠です。



今回、伸長ひずみのメカニズムの、第一歩に踏み込みました。

とりあえずは、物体に、変形、ひずみを与えたとき、断面積が変化する変形は、
伸長ひずみであると理解をしておいて、差し支えないと思います。

せん断ひずみは、変形の大きさに伴い、断面積(厚みや幅)の変化は、発生して
いないことが、前回の、せん断ひずみの図からも、わかると思います。

この差は、粘度測定により、物質の評価を行う際、大きな差を生みます。

このことは、まずは、「伸長粘度は、せん断粘度の3倍」であるところまで、たどり
着いてから、取り上げたいと思います。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


2019年9月14日土曜日

粘弾性について7)_伸長粘度はなぜ3倍? ~その1~_せん断ひずみと伸長ひずみ


これまでの、「粘弾性について」シリーズでは、肩ならし? ウォーミングアップ ?
のため、少し定性的な方向で話をしてまいりました。

この先、少しずつ、科学的な定義にも触れながら、話をしてまいりたいと思います。

そのようにしないと、話が進んでいくにつれ、逆に説明が難しくなることもあるため
です。


今回は、「ひずみ」について取り上げたいと思います。

シリーズ化したサブタイトル、「伸長粘度はなぜ3倍?」を終着点にするための
第一歩として、取り上げようと思いました。


粘弾性について3)_粘度と弾性率の定義のなかで述べられている、

       粘性係数 = 力 / 速度
       弾性係数 = 力 / 変形の大きさ

について、
  ・「速度」とは、ひずみの大きさが変化する速度
  ・「変形の大きさ」とは、ひずみの大きさ
を意味します。

では、「ひずみ」とはなにか、定義について説明します。


ひずみにはいくつかの種類がありますが、このシリーズでは、「せん断(ずり)」
ひずみと、「伸長」ひずみの2つについて説明します。

いずれにしても、ひずみとは、物体の変形の大きさを比で表したものです。


まず、せん断ひずみについて説明します。




せん断ひずみとは、上図のような立方体要素を、トランプをずらすかのように、
上面と底面をたがいちがいにスライドさせる変形です。

力Fをあたえ、Δxのずれを与えたとき、
Δxと、物体の厚みΔyの比、Δx/Δy (=tanΘ) がひずみの大きさ、ひずみ量です。

Δxも、Δyも長さ単位を持ちますので、ひずみ量は無次元単位になります。
なお、100を乗じて%であらわす場合もありますので、単位を確認するようにして
ください。

なお、ずらすのにかけた力Fを、面積Aで割り算したものがせん断応力です。

応力の単位は、
       Pa(パスカル) = F[N(ニュートン)] / 面積[m^2]

前述の通り、
       弾性係数 = 力 / 変形の大きさ

ですので、
       弾性率[Pa] = せん断応力[Pa] / ひずみ量[-]

になります。

なお、せん断ひずみにより測定する弾性率、「ずり弾性率」のシンボルは、「G」が
用いられることが多いです。

次に、このひずみ量を時間(秒)で割り算すると速度になり、これを、せん断速度
と呼び、秒あたりに発生したひずみの大きさになります。

       せん断速度[1/s] = ひずみ量[-] / 時間[sec.]

せん断速度の単位は、1/s であり、粘度測定をされている方は、インバースセック
(秒の逆数)という言葉を使ったり、聞いたりするのではないでしょうか。

前述の通り、
       粘性係数 = 力 / 速度

ですので、
粘度[Pa・s] = せん断応力[Pa] / せん断速度[1/s]

になります。


次に伸長ひずみについて説明します。



伸長ひずみとは、上図のような立方体要素を、直方体に延伸させる変形です。

力Fをあたえ、Δlの延伸を起こしたとき、Δlと、物体の元のながさl0の比、Δl/l0 が
ひずみの大きさ、ひずみ量です。

Δlも、l0も長さ単位を持ちますので、ひずみ量は無次元単位になります。
せん断ひずみ同様、100を乗じて%であらわす場合もあります。

なお、延伸するためにあたえた力Fを、面積Aで割り算したものが引張応力です。
以下は、せん断ひずみの時と同じですが、復習もかねて解説します。

応力の単位は、
       Pa(パスカル) = F[N(ニュートン)] / 面積[m^2]

前述の通り、
       弾性係数 = 力 / 変形の大きさ

ですので、
       弾性率[Pa] = 引張応力[Pa] / ひずみ量[-]

になります。

なお、伸長ひずみにより測定する弾性率は、ヤング率という呼ばれ方で、聞き覚えの
ある方も多いかもしれません。

「伸長弾性率(ヤング率)」のシンボルは「E」が用いられることが多いです。

せん断ひずみ同様、このひずみ量を時間(秒)で割り算すると速度になり、これを、
伸長ひずみ速度と呼び、秒あたりに発生したひずみの大きさになります。

       伸長ひずみ速度[1/s] = ひずみ量[-] / 時間[sec.]

よって、伸長粘度は、
       粘度[Pa・s] = 引張応力[Pa] / 伸長ひずみ速度[1/s]

になります。



流体用の回転粘度計は、せん断ひずみによる測定が主流です。
引張試験機では、呼び名のとおり、伸長ひずみによる測定です。

しかし、変形は、これらの変形形態が複合的に発生します。

サブタイトルにもなっている、伸長粘度はせん断粘度の3倍、を理解するためには
せん断ひずみと、伸長ひずみが、それぞれ、相互的に関係していることを理解する
必要があります。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

伸長粘度はなぜ3倍? にたどり着くまで、一歩一歩進んでいきたいと思います。


2019年9月3日火曜日

【実測シリーズ】緩和時間の測定


過去の投稿で、「緩和」について説明をいたしました。

粘弾性について4)_万物は流転する
粘弾性について5)_緩和について


今回は、緩和曲線を得るための簡単な試験機を作成し、緩和時間を測定してみた結果
をシェアさせていただきたいと思います。


試験機の概要を示します。




測定の手順は、以下の通りです。
なお、サンプルにはシリパテを用いました。

1.サンプルを一気に押し込む
2.荷重値がゼロになるまで計測
3.荷重値が37%に減衰する区間の時間(緩和時間)を確認
4.応力緩和の式(粘弾性について5)_緩和について)に代入しフィッティング
  曲線を得る


以下に、結果を示します。




ドットでプロットされているのが、生の測定データです。
実線がフィッティング曲線です。

測定の後半、低荷重域で生データとフィッティング曲線のずれが大きくなっています
が(低荷重測定の感度の問題、測定開始直後との接触面積の違いなど、いくつか要因
が思いつきます)、概ねよくフィッティングしていると思います。

また、測定開始直後は、値がすべて4000程度を示していますが、センサの測定範囲
を超えているため、飽和してしまっています。

これらのように、実際の測定においても、例えば、センサの感度、時間分解能といった
装置要因による制約で、測定したいところが測定できない、ということは起き得ます。

また、きわめて長時間かけて緩和する物体も多々あるため、測定が長時間におよんで
しまうこともあります。

しかし、このように、ある区間の計測をすることで、短時間、長時間の緩和挙動を
予測することができます。



また、ステージ温度を3水準振って実験を行いましたが、結果からは、温度が高い
ほど、応力曲線の減衰がはやいことがわかると思います。

以下に、緩和時間と測定温度の関係を示します。




例えば樹脂の成形加工などのように、温度と緩和時間の関係を知ることは大変重要
ですが、緩和に長時間かかる場合、このように温度をあげて測定することで、測定
時間の短縮も可能です。

このように、温度と時間には一定の関係性があり、これを「温度-時間換算則」と
いい、レオロジーでは重要な概念の一つです。



いかがでしょうか。

緩和時間には、自然対数(ネイピア数)が出てきたり、応力緩和のモデル式には、
指数関数が含まれていることから、苦手意識をもつ方もいるかもしれません。

しかし、モデルそのものは決して難しいものではない、と思っていただくきっかけに
なれば幸いです。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


粘弾性について5)_緩和について


先月、レオロジー講座の講師を務めさせていただく機会がありました。
長時間の講座であったため、その資料作成に追われていたり、新商品の準備に
追われているうちに、前回の投稿から、しばらく時間があいてしまいました。


前回の投稿、粘弾性について4)_万物は流転する では、レオロジーにおいては、
すべての物体は、流体であり、流動速度がはやいか、おそいか、の違いだけである。

極論的にはこのように説明をしましたが、流体か固体かを判断するときの指標となる
数に、デボラ数というものがあります。

       デボラ数 = 緩和時間 / 観察時間

今回は、「緩和」とはなにか、について説明をします。


緩和現象の観察には2つの方法があります。



一つは、上図の左の例のように、例えば物体に、一定の荷重または力を与えて、
その変形量の変化を観察する方法です。

もう一つは、上図の右の例のように、一定の変形を与えたときの力の抜け具合を
観察する方法です。

左の例を、「クリープ試験」といい、
右の例を、「応力緩和試験」といいます。


クリープ試験では、試験開始時においては、変形が生じない程度の荷重、または
力であること。

応力緩和試験では、試験開始時においては、力を開放した時、変形した物体がバネ
のように、もとの形状に回復する程度の変形であること。

これらが試験条件になります。

いずれの方法においても、時間の経過とともに、例えば樹脂であれば、絡み合った
高分子が緩やかにほどけ、金属であれば、金属イオンにずれが生じるため、与えた
荷重や変形に応じた形状に、徐々に「ならされていく」ことになります。

この挙動が緩和であり、高分子がほどけたり、金属イオンがずれることは流動と
言いかえられます。



ここからは、緩和時間について説明したいと思います。
緩和時間とは、制御系では時定数と呼ばれ、クリープ試験における遅延時間と同義
です。

起点とするある時点での状態が、約37%にまで状態が減衰するのにかかった時間
です。

この37%というのは、

       ネイピア数(e) ≈ 2.7 の逆数、約0.37

から来ています。


応力緩和試験における、応力の減衰曲線を下図に示します。


例えば指で、ある物体に一定の変形を与えたとき、与えている力は上図のような
曲線に従って抜けていきます。

このグラフの中で、応力が37%に減衰した区間、どこを切り取っても、同じ時間の
長さ(緩和時間)を示します。
放射能の半減期と同じような見方ですね。


次にクリープ試験における、ひずみ(変形)曲線を示します。


変形と力は表裏一体です。
力ではなく、変形量を観察するクリープ試験では、

       1-0.37 = 0.63

であり、ある基準とする変形状態の、約63%の変形量に達するまでにかかった時間
をしらべます。
この時間を遅延時間と呼びますが、緩和時間と同義です。

応力緩和試験同様、63%に達する時間領域、どこを切り取っても、同じ時間の長さ
を示します。



これで、前述のデボラ数の式、緩和時間がわかりました。

一方で、観察時間は、観察者、つまり、作業者や設計者が定めなくてはなりません。

また、デボラ数、いくつ以上を固体として扱うか、いくつ以下を流体として扱うか
についても、観察者が定めなくてはいけません。

観察時間は、例えば工業的には、商品の耐久年数、製造においては、ある加工や流動
を材料に与えるときの速度や、次の工程に進めるまでの時間などでしょうか。



動的粘弾性の測定は、粘弾性変化の、時間との関係性を調べることが目的であり、
この時間というのが、緩和時間のことにほかなりません。

緩和のイメージをつかんでいただければ、幸いです。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。