これまでの、「粘弾性について」シリーズでは、肩ならし? ウォーミングアップ ?
のため、少し定性的な方向で話をしてまいりました。
この先、少しずつ、科学的な定義にも触れながら、話をしてまいりたいと思います。
そのようにしないと、話が進んでいくにつれ、逆に説明が難しくなることもあるため
です。
今回は、「ひずみ」について取り上げたいと思います。
シリーズ化したサブタイトル、「伸長粘度はなぜ3倍?」を終着点にするための
第一歩として、取り上げようと思いました。
粘弾性について3)_粘度と弾性率の定義のなかで述べられている、
粘性係数 = 力 / 速度
弾性係数 = 力 / 変形の大きさ
について、
・「速度」とは、ひずみの大きさが変化する速度
・「変形の大きさ」とは、ひずみの大きさ
を意味します。
では、「ひずみ」とはなにか、定義について説明します。
ひずみにはいくつかの種類がありますが、このシリーズでは、「せん断(ずり)」
ひずみと、「伸長」ひずみの2つについて説明します。
いずれにしても、ひずみとは、物体の変形の大きさを比で表したものです。
まず、せん断ひずみについて説明します。
せん断ひずみとは、上図のような立方体要素を、トランプをずらすかのように、
上面と底面をたがいちがいにスライドさせる変形です。
力Fをあたえ、Δxのずれを与えたとき、
Δxと、物体の厚みΔyの比、Δx/Δy (=tanΘ) がひずみの大きさ、ひずみ量です。
Δxも、Δyも長さ単位を持ちますので、ひずみ量は無次元単位になります。
なお、100を乗じて%であらわす場合もありますので、単位を確認するようにして
ください。
なお、ずらすのにかけた力Fを、面積Aで割り算したものがせん断応力です。
応力の単位は、
Pa(パスカル) = F[N(ニュートン)] / 面積[m^2]
前述の通り、
弾性係数 = 力 / 変形の大きさ
ですので、
弾性率[Pa] = せん断応力[Pa] / ひずみ量[-]
になります。
なお、せん断ひずみにより測定する弾性率、「ずり弾性率」のシンボルは、「G」が
用いられることが多いです。
次に、このひずみ量を時間(秒)で割り算すると速度になり、これを、せん断速度
と呼び、秒あたりに発生したひずみの大きさになります。
せん断速度[1/s] = ひずみ量[-] / 時間[sec.]
せん断速度の単位は、1/s であり、粘度測定をされている方は、インバースセック
(秒の逆数)という言葉を使ったり、聞いたりするのではないでしょうか。
前述の通り、
粘性係数 = 力 / 速度
ですので、
になります。
次に伸長ひずみについて説明します。
伸長ひずみとは、上図のような立方体要素を、直方体に延伸させる変形です。
力Fをあたえ、Δlの延伸を起こしたとき、Δlと、物体の元のながさl0の比、Δl/l0 が
ひずみの大きさ、ひずみ量です。
Δlも、l0も長さ単位を持ちますので、ひずみ量は無次元単位になります。
せん断ひずみ同様、100を乗じて%であらわす場合もあります。
なお、延伸するためにあたえた力Fを、面積Aで割り算したものが引張応力です。
以下は、せん断ひずみの時と同じですが、復習もかねて解説します。
応力の単位は、
Pa(パスカル) = F[N(ニュートン)] / 面積[m^2]
前述の通り、
弾性係数 = 力 / 変形の大きさ
ですので、
弾性率[Pa] = 引張応力[Pa] / ひずみ量[-]
になります。
なお、伸長ひずみにより測定する弾性率は、ヤング率という呼ばれ方で、聞き覚えの
ある方も多いかもしれません。
「伸長弾性率(ヤング率)」のシンボルは「E」が用いられることが多いです。
せん断ひずみ同様、このひずみ量を時間(秒)で割り算すると速度になり、これを、
伸長ひずみ速度と呼び、秒あたりに発生したひずみの大きさになります。
伸長ひずみ速度[1/s] = ひずみ量[-] / 時間[sec.]
よって、伸長粘度は、
粘度[Pa・s] = 引張応力[Pa] / 伸長ひずみ速度[1/s]
になります。
流体用の回転粘度計は、せん断ひずみによる測定が主流です。
引張試験機では、呼び名のとおり、伸長ひずみによる測定です。
しかし、変形は、これらの変形形態が複合的に発生します。
サブタイトルにもなっている、伸長粘度はせん断粘度の3倍、を理解するためには
せん断ひずみと、伸長ひずみが、それぞれ、相互的に関係していることを理解する
必要があります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
伸長粘度はなぜ3倍? にたどり着くまで、一歩一歩進んでいきたいと思います。
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