2023年10月11日水曜日

【実測シリーズ】ポータブルレオメータによる測定例_周波数依存からみる緩和挙動

前回に続いて、

【実測シリーズ】Surfgauge 試作室_ハンディな ポータブル レオメータ 

にて紹介した、ハンディレオメータの測定事例を紹介いたします。


レオメータによる動的粘弾性の測定は、上記での投稿でお見せした動画のように、

正弦振動により、材料にひずみを与えます。


一般にレオメータは、この振動の振幅と、周波数を変化させることができます。

そこで、レオメータの主な測定と評価方法は、以下のようなものがあります。


1)振動の周波数を固定し、振幅を、小から大へ変化させていくことで、主に、

降伏点前と、後での材料の応答性の変化を観察する。

2)周波数も、振幅も固定で、時間の経過に伴う材料の変化を観察する。

前回投稿の、接着剤の硬化過程の観察がこれにあたります。

3)周波数も、振幅も固定で、温度を変化させたときの材料の変化を観察する。

4)振幅を固定し、周波数を変化させることで、材料の緩和挙動を観察する。


まずこちらの動画をご覧ください。


いわゆるシリパテを、ゆっくり引っぱったときと、素早く引っぱったときの挙動の
違いを撮影したものです。

素早く引っぱったとき、シリパテは伸びることなく、ブチっとちぎれてしまい、
その断面は平らで、その面もエッジが立っていることがわかると思います。

一方で、ゆっくり引っぱると、シリパテは伸びるとともに、タラーっと垂れて
いきます。


前者は、まさに固体的な挙動であり、後者は、液体的な挙動です。


この様子を、レオメータの測定でどのように表現できるのか。

この時、材料の、緩やかな動きへの応答性と、素早い動きへの応答性を見るため

に、上記、4)の測定方式を試してみます。


結果は、以下の通りです。

横軸 :周波数 [Hz]

左縦軸:貯蔵・損失弾性率 [KPa]

右縦軸:位相差 [°]

赤曲線:貯蔵弾性率、青曲線:損失弾性率、黄曲線:位相差


低周波数から高周波数に向かって、弾性率が文字通り、けた違いに増加している

ことがわかります。

つまり、かたくなっているということになります。


実際、シリパテをゆっくり引っぱったときは、力を必要とせず、抵抗感なく

引っぱることができました。

一方で、素早く引っぱるときは、手に力が入り、抵抗感も感じました。


過去の投稿でも書きましたが、

かたい = 固体、やわらかい = 液体 

は、必ずしも成立しないことがあります。


では、タラーっと垂れる流体的な挙動と、断面が平らで、エッジがっている

という固体的な挙動については、このデータからどのように見ることができる

のでしょうか。


もう少し高周波数まで測定を行えばよかったのですが、いずれにしましても、

グラフからは、高周波数に行くほど貯蔵弾性率の支配性が増し、つまり固体的な

応答をしていることがわかり、

低周波数に行くほど、損失弾性率の支配性が大きく増していっている、つまり

液体的な応答をしていることがわかります。


ここで、このグラフの横軸は周波数、つまりは速度ということになるため、その

逆数は時間になります。

与えているひずみ(振幅)が一定であれば、弾性率の変化は、応力の変化という

ことになりますので、この弾性率のグラフは、緩和曲線とみることができます。


緩和している状態とは、貯蔵成分が限りなく消失している状態といえます。

通常の応力緩和試験では、応力の抜け具合はわかりますが、貯蔵成分の残留に

ついては、明確にはわかりません。

動的粘弾性測定を用いれば、損失成分と、貯蔵成分の値を比較したり、位相差の

値から、これがわかります。


また、ある時間における緩和状態を知りたい場合、通常の応力緩和試験では、

短時間から通貫して、その時間まで緩和試験を行わなくてはなりませんが、

動的粘弾性を用いれば、その時間の逆数となる周期、一点を測定すればよいと

言えます。


なお、緩和については、過去の投稿、

粘弾性について5)_緩和について

【実測シリーズ】緩和時間の測定

などをご参照ください。


動的粘弾性測定の、情報量が多く、興味深い一面が見れたように思いますが、

いかがでしたでしょうか。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。



2023年10月9日月曜日

【実測シリーズ】ポータブルレオメータによる測定例_硬化挙動評価

前回投稿の【実測シリーズ】Surfgauge 試作室_ハンディな ポータブル レオメータ

にて紹介した、ポータブルレオメータによる測定例を紹介いたします。



今回、シリコーン樹脂系弾性接着剤の硬化挙動について、測定を行いました。

下図、測定結果になります。


横軸 :時間 [分]
左縦軸:貯蔵・損失弾性率 [KPa]
右縦軸:位相差 [°]

赤曲線:貯蔵弾性率
青曲線:損失弾性率
黄曲線:位相差

測定開始時は、損失弾性率が貯蔵弾性率を大きく上回り、位相差も90°近辺の

値を示していることから、試料が液体状態であることがわかります。


35分くらいの時点で、位相差が45°を示し、貯蔵・損失弾性率のグラフが

クロスしています。

ここで、液体から固体への遷移点として、硬化時間の判定として定義するという

使い方ができます。


この接着剤を使用する場合、30分程度は、接着面が動かないように固定しておく

必要がありそう、といったような判断ができそうです。


その後、緩やかに位相差が低下し、弾性率が上昇していくことで、完全に固定化

していく様子がわかります。


動的粘弾性の測定は、弾性率をかたさの情報にくわえ、貯蔵・損失成分に、成分

わけできるため、非常に多くの情報を与えてくれます。


動的粘弾性の測定原理については、過去の投稿

粘弾性について6)_動的粘弾性の測定原理

をご参考いただければと思います。


また近々、周波数依存の測定を行った例をご紹介させていただければと思います。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


2023年10月3日火曜日

【実測シリーズ】Surfgauge 試作室_ハンディな ポータブル レオメータ

 以前の投稿、

「【実測シリーズ】Surfgauge 試作室_ハンディなポータブル レオメータの提案」

にて、ポータブルレオメータの試作機を紹介させていただきました。


ポータブル機器として、より使い勝手の良さを検討し、量産試作が完成いたしました。

外観と、サイズ感は以下のような感じです。


機能と特徴は、

1)
使い勝手を考慮し、ひずみ量と周波数は、有段で設定変更できるようにしています。
側面の上方に設置しているボタンで、それぞれ数段階の切り替えが可能です。

2)
ディスプレイを本体に搭載し、
    ・弾性率(複素、貯蔵、損失)
    ・位相差
    ・周波数
    ・ひずみ量
が、表示されます。
測定しながら、リアルタイムで確認することができますので、検査などの現場使いに
適していると思います。
(弾性率のシンボルに「G」が使用されていますが、この装置は、縦ひずみでの測定の
ため、「E」に変更予定です。。。)

3)
測定子については、
 ・円板型のピストン2種(大、小)
 ・その他(ピン型、円すい型、ナイフエッジ型)
等に対応しています。

円板型のピストンについては、ピストンの断面積と荷重値から応力が算出され、サンプル
の厚みも計測されますので、弾性率[Pa]、ひずみ量[-]の出力が可能です。

その他の測定子については、荷重値[N]と、変形量[mm]から、弾性係数を[N/mm]と
して出力します。

4)
押し込みのモードと、引き上げの両モードを備えました。
押し込みモードは、材料の弾性率の測定に。
引上げモードは、塗装面などの上でそのまま測定することで、塗膜の硬化課程などを
調べることができます。

5)
弾性率だけでなく、位相差のキャリブレーションに対応しています。
レオメータを知っている方にとっては、これは気になるところではないでしょうか。
なお、完全なひずみ制御を採用しているため、変位量については、キャリブレーション
不要です。

6)
以前、紹介した試作機からアクチュエータを変更し、より小さなひずみ量の制御が可能
となりました。


動きがわかりやすいように、かなり大きな振動を与えてますが、切り取った除振パッドを
大ピストンを用い、測定している動画です。
周波数を、適当に切りかえています。



動作の確認、調整のため、いろいろな試料を測定していますが、やはり動的粘弾性の
測定は非常に興味深く、面白いです。
測定例なども、この場であげさせていただき、シェアさせていただければと思います。

主に品質検査などに活躍できるのではないかと期待をしています。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

2023年3月21日火曜日

【実測シリーズ】Surfgauge 試作室_ハンディな ポータブル 表面張力計の提案_その2

以前、

【実測シリーズ】Surfgauge 試作室_ハンディな ポータブル 表面張力計の提案

と題した投稿で、現場志向のハンディな表面張力計を提案いたしました。


マイクロヘッドを手で回すときに、装置に振動が伝わってしまい、安定した液滴の

滴下をそがいし、ばらつきを生み出す要因になっていました。

当時、この点を改善しないことには、商品化は難しいとの判断に至りました。


最終的に、装置を自動化することで、測定者の動作を最小限にすることで、解決

することができました。

以下、測定中の動画です。

(動画の右下の設定で、画質を変更すると、多少鮮明になります)



動画内容を解説しますと、
・試料を入れた、ディスポタイプのシリンジをセットします。
・流量の設定(3段階)を選択し、一定量、液滴を滴下します。
・滴下を止めると、表面張力値が表示されます。

以前の投稿でも述べましたが、
現場で、簡便に、手早く、測定可能な表面張力の測定機器は、色々な制約があり、
実現が難しいと考えられました。

この装置で解決できると思います。

近日、リリースを予定しております。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。