2020年7月27日月曜日

粘弾性について6)_動的粘弾性の測定原理


長らく先送りしてきた、動的粘弾性の測定原理について解説したいと思います。

前回、【実測シリーズ】コロナ自粛期間中 速報的 液膜粘弾性の測定 として、
動的粘弾性の実測例を紹介いたしました。

動的粘弾性の測定について、あまりよくご存じのない方には、内容があまりよく
伝わらなかったのではないかと思います。

本来、動的粘弾性の測定原理については、もう少し早い段階で、この内容を投稿
したいと考えておりましたが、遅まきながら、ようやく投稿にこぎつけました。


では、本題に移りたいと思います。


液体の流動抵抗は、粘性に起因し、粘度を測定することで、その抵抗の度合いを
調べることができます。
固体のかたさは、弾性に起因し、弾性率を測定することで、そのかたさを調べる
ことができます。

粘度にしても、弾性率にしても、ある物体のかたさ(的なもの)をあらわしている
ことに違いはありません。

ところが、完全な流体(粘性体)、完全な固体(弾性体)というのは、厳密には存在
せず、物体は、大なり小なり、粘性と弾性の要素をあわせもっている、粘弾性体です。

そのため、粘弾性の測定が重要になります。
粘弾性とは、さも一つの物性のように思えますが、単独で存在する物性ではないので、
ある一つの測定から、複合的に解析され、評価をします。

粘弾性は、横軸、縦軸に成分分けし、平面的に評価するという特徴をもとに、
粘弾性について1)_学校の定期試験を例にとった説明
粘弾性について2)_固体はかたい、液体はやわらかい?
にて、概念的な説明を行いました。



では、ここから具体的な説明に入りたいと思います。

まず、図1.をご覧ください。

図1.

滑車を用いて、ピストンを往復運動させている時のアニメーションです。
滑車が等速で円運動をしているとき、ピストンの位置を記録していくと、正弦波形
が得られます。
また、滑車の回転角度と、正弦波の横軸を対比させると、正弦波一周期は、360°
であることがわかります。

次にフックのバネ試験を、分銅の重さを連続的に変化させたとして、正弦振動で
行ってみたときのイメージが、以下、図2.になります。

図2.

刻々と変化する、ばねの位置(伸び)と、分銅の重さを連続的に記録すると、二つの
正弦波形が得られました。

二つの波形のピークの値、「重さ」を「伸び」で割り算すれば、弾性率が得られ、
振動をさせていようが何だろうが、本質的にはフックのバネ試験となんら変わらない
ことがわかります。

フックの法則に従い、重さと、伸びは比例関係ですので、ピークの値に限らず、同じ
タイミングどこでも二つの値の比をとれば弾性率が得られます。

実際に、縦軸に重さ、横軸に伸び、の関係であらわたしたのが、以下、図3.です。

図3.

このグラフの傾きが弾性率をあらわすことから、やはり、フックのバネ試験と、
何ら変わらないことがわかります。


次に、理想粘性体の場合の、荷重(力)と位置の関係性を、図4.に示します。

図4.

理想弾性体の時と異なり、力の波形が、位置波形に、90° 先行していることがわかり
ます。

力が、正または負で、最大値をとっているとき、位置波形は、原点位置にあります。
逆に、位置が、正または負で、最大の位置にあるとき、力は原点ライン上にあり、
つまり、力がゼロ、発生していないことになります。

ここで、ニュートンの粘性法則を思い出してください。

    [ 力 = 粘度 × 速度 ]

でした。
力は、速度に比例します。

ピストンは、原点ラインを通過するとき、最大の速度にあり、通過後、正、または
負のピーク位置にむかって減速し、折り返しとなるピーク地点では、瞬間的に速度
はゼロになります。

つまり、力波形は、ピストン位置の、速度状態に対応をしており、ニュートンの粘性
法則にしたがっていることになります。

位置を、時間について微分すると、速度になりますが、正弦波を微分すると、90°
シフトするというのは、なんとなく記憶にあるのではないかと思います。
数学的にも、上述のように現象論的にも、以上のように説明できます。


図3.では、同じタイミングで得られた、両波形の値の比をとれば、弾性率になる
ことを説明しました。
これは、フックのバネ試験と何ら変わらないと申しましたが、とりわけ、正弦振動
で測定を行った場合は、「複素弾性率」と呼びます。

次に、二つの正弦波形の位相の差に着目します。
位相差が0° の時、完全弾性体。
位相差が90° の時、完全粘性体。
0~90° の間にある時、粘弾性体であるということになります。

動的粘弾性の測定では、複素弾性率による、かたさ情報だけでなく、位相差の値から、
どの程度、弾性寄りなのか、粘性寄りなのか、性質の情報も与えてくれます。


ここまでは、三角関数の観点で説明をしてきたことになるのですが、オイラーの式
を用いることで、複素解析に結びつけることができます。
(ブログの目的、紙面の制限、筆者の説明能力、などの制約のため、オイラーの式に
ついてはふれません)

以下、図5.は、粘弾性について2)_固体はかたい、液体はやわらかい? の説明の
中で用いた評価例ですが、オイラーの式により、複素平面上に表すことができる
ようになります。

図5.

ここで、二つの正弦波の比である、複素弾性率は、かたさ情報を、ベクトルの長さ
としてあらわされます。
位相差は、原点位置における角度として、ベクトルの向きを決めています。
これにより、複素弾性率は、縦成分と横成分に成分分けすることができます。

縦軸は、損失弾性率といい、粘性成分(位相差90° の成分)を示し、虚数単位を
とります。
横軸は、貯蔵弾性率といい、弾性成分(位相差0° の成分)をしめし、実数です。


いかがでしたでしょうか。
複素数、虚数が出てくると、無条件で、「ややこしい」と思われてしまう面もある
ように思います。
実際には、かたさ(弾性率)を、単に、横・縦成分に、2成分分けしているのだな、
と理解すれば十分の測定・評価方法であると思います。


前回の、【実測シリーズ】コロナ自粛期間中 速報的 液膜粘弾性の測定 で紹介した
システムを用い、せん断ひずみによる動的粘弾性の測定への応用検証も、はじめて
おります。

次回、【実測シリーズ】として、ご紹介できればと考えています。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


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