2019年3月27日水曜日

粘弾性について3)_粘度と弾性率の定義


これまでの投稿で引っ張ってきた今回のタイトルに、ようやくたどり着くことが
できました。


初回の投稿、粘弾性について1)_学校の定期試験を例にとった説明 の文頭でも
述べましたが、粘性と弾性は、別の物性です。

「粘弾性」という物性は、粘弾性について1)_学校の定期試験を例にとった説明
で説明したとおり、複素数を用いて、粘性成分と弾性成分を合成し、あらわします。

つまり単独では存在しない物性、ということになります。


粘性の定義は、ニュートンの流動法則に基づき、
    力 =  粘性係数 × 速度
としてあらわされます。
この法則は、一般的に液体としてとらえられる物体が、対象となります。

本来、力とは応力であり、速度とはひずみ速度と定義されますが、どのような応力か、
ひずみとは何か、については、ここではふれません。
またの機会とさせていただければと思います。

とりあえずイメージとして、
  ・力を、ボートのオールを漕いだ時の力
  ・速度を、液体の流動速度(上述、液体を掻いたオールの速度、でもよいです)
のように持っていただければと思います。

上記の式を変形すれば、
    速度 = 力 / 粘性係数
となりますので、粘性が小さい液体に対し、大きな力を与える条件では、
流動が速くなる。
ということは、イメージしやすいのではないかと思います。

いずれにしましても、力と速度は、比例関係であるということがポイントです。


一方で、弾性の定義は、フックの弾性法則に基づき、
    力 = 弾性係数 × 変形の大きさ
としてあらわされます。
この法則は、一般的に固体としてとらえられる物体が、対象となります。

ここでも、やはり、力は応力をさし、変形は、ひずみとして定義されますが、説明に
つきましては、またの機会とさせていただければと思います。

とりあえず、
  ・変形を、消しゴムとかグミキャンディーを、指で押してみたときの変形
  ・力を、その時の力の入れ具合
を、イメージとして持っていただければと思います。
  
上式を変形しますと、

       変形の大きさ = 力 / 弾性係数

となりますので、やわらかい(弾性係数が小さい)ものに、力をこめるほど、おおきく変形する、ということでイメージしやすいのではないかと思います。

ここでは、力と変形の大きさが、比例関係である、ということがポイントです。


粘性係数、弾性係数を求めるための式、

       粘性係数 = 力 / 速度
       弾性係数 = 力 / 変形の大きさ

ですので、変数がそれぞれ、速度と変形の大きさで異なっており、粘性と弾性は
まったくの別物性だということがわかります。


例えば、上述の、オールで液体を掻く、という情景で、その液体が水であれば、掻かれた
液体は流動している、とイメージできます。
しかし、水ではなく、スライム状の物体であったとき、流動なのか、変形なのか、
どちらかに明確に切り分けることは、難しいのではないでしょうか。

このような時、粘弾性の出番になります。

粘性と弾性、まったく別の物性を、粘弾性として、さも一つの物性であるかのように
みなそう、という方法は、独特であると同時に、大変な実用性を感じます。

また、粘弾性に限らず、現実的には、例えば、潤滑油を塗布した面が、他の面とこすれ
あうとき、こすれの抵抗は、摩擦係数で評価すべきなのか、潤滑油の粘性から評価する
べきなのか、明確な切り分けができない現象は、たくさんあるのかもしれません。


粘性と弾性、それぞれのモデルを用いた図説、
「ひずみ」と「応力」について、
これらは、またの機会に触れていきたいかと思います。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


2019年3月25日月曜日

毛細管現象_最初の発見者は誰??


これまでの投稿の中で、粘性と弾性の定義についてはいずれ掘り下げたいと、先送り
してまいりました。。

粘性については、ニュートンの流動法則。
弾性については、フックの弾性法則。

これらの定義を少しレビューしていたところ、ニュートンとフックには、毛細管現象
の発見という点でも、共有テーマがあることがわかり、急きょ今回の内容を変更して
しまいました。

粘性と弾性の定義については、またこんど、掘り下げてみたいと思います。


毛細管現象については、ヤングとラプラスが、1805年、同年に、それぞれが出版した
著書により、明確に理解されるようになりました。

ラプラスの著作は、液体の凹凸(メニスカス)を扱った自由表面などの観点から、
より解析的な内容であったのに対し、
ヤングの著作は、気体、液体、固体の間、熱力学的な相が関係する現象、という観点
から、数式が用いられない定性的な内容でした。

同年に出版された二つの著作は、このような点で対比されたりもしていますが、この
ヤングの著書で、初めて表面張力について述べられたようです。

ちなみに、上記のヤングの観点は、今日では「ぬれ」という分野に分類されるもの
ですが、「ヤングの式」をもちいて、ぬれ現象を説明したのは、この後の著作のよう
です。


ニュートンは、自身の著作である「光学」(1704) の中の、「Queries」という章で、

「2枚のガラス板を100分の1インチの距離に平行にならべて水の中に立てると、
水がこの2枚の板の間を約1インチ上昇する」

ということを確かめた、ということが、上記のヤングの著作の中で、述べられているよう
です。

このニュートンの説明は、まさに毛細管現象を観察した内容ですが、ヤングとラプラスの
著書の出版以前、100年も前のことです。


ところが、フックは、さらにその40年以上前の1661年、「毛細管現象論」を出版して
います。「毛細管現象論」はフックの最初の著作でもありました。

この著作の中で、
  毛細管の中に液体が上昇していくのは、管内と外側の気圧差のせい。
  気圧差が生じるのは、空気とガラスの相性が悪く、ガラス管の内部に空気が入り
  込みにくいから。
  この相性の良し悪しは、水と油が混ざらないこと、溶解や沈殿の原因にもなって
  いる。
と記しているようです。

ラプラスは、毛細管現象を圧力差から、ヤングの式は、気体、液体、固体、3相の相性
を説明しています。
フックは、ヤング、ラプラスの出版以前、150年も前に、すでに同じような着眼点を
持って毛細管現象を理解していたのだと感じます。

また、水と油の相溶(乳化)、溶解・沈殿(分散)には、物性として、表面(界面)
張力、接触角が、深く関係しています。
毛細管現象とこれらの現象を、ぼんやりとながらイメージできていた、表面張力の
概念を介して、関連づけ、理解をしていたのかもしれません。


ちなみに、出版物にはなっていないようですが、研究史の中で、毛細管現象を最初に
観察し、記録を残したのは、レオナルド・ダ・ヴィンチであるという説があります。
膨大なCodex(手稿)の中に、記録が残されているのではないかと想像します。



今回、ニュートンの粘性法則と、フックの弾性法則のとりかかりから、話がそれた形で
毛細管現象にふれました。

フックについては、フックの弾性法則以外、人物像も含め、あまり詳細がわからない
という印象がありました。
実は、ヤングとラプラスに先がけ、近代研究史の初期の段階で、毛細管現象について、
ユニークで、鋭い視点から説明していたことがわかりました。

同じ時代に活躍した、ヤングとラプラス。それと対照的に、同じ時代を生きたニュートン
とフックには、深い確執があったともいわれているようですが、粘弾性を理解するうえ
で、ニュートンの法則とフックの法則の理解は、等しく重要だと思います。
このシンプルな古典物理の法則の理解がほぼすべて、というようにも思います。


なお、「毛細管現象論」の4年後である1665年に、フックが出版した
「ミクログラフィア」は、現在でも入手可能なようです。
「毛細管現象論」で説明した内容の大部分は、この著書で知ることができるようです。
この機会に、ぜひ一度、読んでみたいと思いました。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


2019年3月20日水曜日

粘弾性について2)_固体はかたい、液体はやわらかい?


前回の投稿から、連投しています。
ブログを立ち上げたばかりなので、モチベーションが高いせいかもしれません。
継続していくよう頑張っていきたいと思います。


今回のタイトルのような印象をお持ちの方が、いがいと多いのではないかと思います。
たしかに、

  固体というと、岩とか、金属とか、そんなものが思いうかび、
  液体というと、やはり水とか、せいぜいトロッとした程度のものを思いうかべます。


つぎに、固体と液体の、特徴や性質をあげてみたいと思います。
いろいろあると思いますが、例えば、

  ・固体は、角(かど)がある、つのが立つ、形状を保持する、われる
  ・液体は、しみこむ、ぬれる、丸くなる、水平になる、不定形

のようなことをあげられます。
それぞれが、逆の特性を持っているように思います。

では、この特徴に、「かたい」、「やわらかい」を加えることは妥当でしょうか。


ここで、寒い冬場、または冷蔵庫から取り出したばかりの水あめを、想像していた
だきます。
その水あめに人差し指をつっこんで、そのまま混ぜてみようと思った時、相当な抵抗
を受けることは想像にかたくないと思います。

つまり「かたい」ということであり、粘度が高い、ということになります。

それでも、ビンをさかさまにすれば、ドローっとジワリと流れ出てくるでしょうから、
固体の代名詞的な、岩とか金属と比べれば、やはり液体だからやわらかい、という
結論になるかもしれません。


では次に、今日はお祝いでケーキを食べようと、ショートケーキを買ってきました。
あまりにおいしそうでがまんできず、ついついホイップクリームに指をつっこんで、
ペロっとなめてしまいました。

ホイップクリームに指をつっこんだ時に受けた抵抗(心理的な抵抗ではなく)は、
水あめの時よりも明らかに小さいということは、想像にかたくないと思います。

つまり「やわらかい」ということであり、粘度計で測定してみた場合、粘度が低い、
という結果になるはずです。


ここで、指をつっこんだ時の抵抗の強さを整理してみたいと思います。
    岩とか金属 > 冬場の水あめ > ホイップクリーム
少なくとも冬場の水あめが液体という判定ですので、それよりもやわらかいホイップ
クリームは液体ということになると思います。

この結論は正しいのでしょうか。


ここで、ショートケーキ用のスポンジに、粘度の高い(かたい)水あめと、粘度の低い
(やわらかい)ホイップクリームを、それぞれ塗りたくってみる、という思考実験を
行ってみます。

水あめのケースでは、ドローとスポンジの上にのった後、ベトーっとスポンジにしみ
こんでいく像が思いうかびます。

ホイップクリームのケースでは、まさにお店で売っているショートケーキの像が思い
浮かびます。
ホイップクリームは、しみこむこともなく、星型にそったようなスジがのこり、つの
や角(かど)が立った状態を何時間でも、あるいは日にち単位で保持しますね。

このホイップクリームの特性は、前述した固体の特徴の通りではないでしょうか。


さて、このように、やわらかくても固体、かたくても液体、はどのような物性から評価
したらよいのでしょうか。

粘度計で測定をしてみましょう。結果を下図に示します。


縦軸は粘度値で単位は mPa・s です。
粘度値が100倍程度に異なった結果になっています。

一応、断りを入れておきますと、今回、実測は行っていません。
書籍やインターネットで調べ、おおむね代表的とおもえる値でグラフを作りました。
特にホイップクリームについては、使用する油脂や、空隙(くうげき)の違いなどで、
数十~数百 mPa・s くらいの幅で、粘度値は異なるようです。

ここでは、おおざっぱに100倍くらい粘度値が違う、と思っていただければと思います。

粘度測定の結果から、ホイップクリームのしみこみにくさや、角の立ちやすさを
比較したり予測するのは難しそうですね。
例えば食品の中で、とんかつソースは、数百 mPa・s くらいですが、同じような粘度値
であっても、ホイップクリームとは明らかに異なった特性を持っていますよね。

逆に、ホイップクリームですらしみこまないのだから、それよりも高い粘度値をもつ
水あめはしみこまない。という評価も早計だと思います。


ここで粘弾性による評価の出番です。
結果を下図に示します。
*ホイップクリームの値が、水あめに対し小さぎてグラフ上で見えなくなって
しまうため、便宜上、水あめの値を上記の棒グラフで示した値の1/10にしています。
また、こちらの結果も実測値ではありません。


このグラフの見かたは、「粘弾性について1)_学校の定期試験を例にとった説明」
レビューしていただければと思います。

簡単に説明をいたします。

平面上、両サンプルのベクトルの長さがサンプルのかたさで、誤解を恐れずに言えば、
先に示している棒グラフと同じ長さを持っていると思ってください。

棒グラフとの違いは、ベクトルですので向きを持っています。
そのため、ベクトルの長さである総合的なかたさの値を、横成分と縦成分に分けることが
できます。

ここで、
    横軸は弾性値を示し、固体としてのかたさをあらわします。
    縦軸は粘性値を示し、液体としてのかたさをあらわします。

水あめのほうが、ベクトルが長いため、ホイップクリームよりも圧倒的にかたい、という
ことがわかります。
粘度測定の棒グラフと同じ長さなので、100倍かたい、ということになります。

一方で、グラフの傾きが大きく、垂直に近いため、かたさの内訳は粘性が大半をしめる
ことから、物体の状態としては、液体である、ということを同時に示しています。

ホイップクリームに着目しますと、ベクトル自体は短いものの、傾きが小さいこと
から、粘性成分は小さく、状態としては、固体である、ということを示しています。

ちなみに、とんかつソースを測定した場合、ベクトルはホイップクリームと同じくらい
の長さを持ち、傾きが、おそらく水あめほどではないにしても、液性を示すくらいに
大きいのではないかと予測します。


前回投稿した、「粘弾性について_学校の定期試験を例にとった説明の試み」をサポート
するつもりで書きました本稿、いかがでしたでしょうか。

前回も文末に書きました通り、粘性と弾性、それぞれの定義については掘り下げる必要
があると思います。
また、成分分けのご利益(りやく)は多少わかっていただいたものと思いますが、
ベクトルの向きはどのように測定できるのかが気になりますね。

それはいずれ、またの機会にしたいかと思います。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


粘弾性について1)_学校の定期試験を例にとった説明


初回の投稿にあたって、何を取り上げるかをしばらく考えていましたが、粘弾性を取り
上げることにしました。


粘性と弾性は全く別の物性です。
粘弾性という物性は、単独では存在しません。

粘性にしろ、弾性にしろ、物体のかたさをあらわしているという共通点がありますが、
ここでは、粘性は液体のかたさ、弾性は固体のかたさ、を示す物性だと思ってください。

実際に物体は、粘性的な要素と弾性的な要素をあわせもっています。
粘性か弾性、どちらかだけでは物体のかたさを評価することはできません。

言い換えれば、純粋な粘性体(液体)、純粋な弾性体(固体)というのは存在しない
ということになります。

単独では存在しない粘弾性、、、このイメージがずっとつかない、という方がたくさん
いるように思います。


ここでは基礎以前の基礎として、イメージをつかんでいただくために、抽象的な説明を
いたします。


学生であるA君とB君の定期試験の結果を表にしました。


受験に備え、そろそろ、志望校のレベル、文系、理系を決めなくてはなりません。

そこで、2人の成績を、
  ・合計点を横軸
  ・国語の点数から数学の点数を引き算した値を縦軸
という見かたでグラフ上にあらわしました。


合計点である横軸は、総合的な学力をあらわします。
縦軸は、国語の点数から数学の点数を引き算していますので、正であれば文系より、
負であれば理系より、ということになります。

いかがでしょうか。
いったい、これが粘弾性となんの関係があるのか・・・?


このグラフの横軸を粘弾性値とします。
これは物体の総合的なかたさをあらわすことになります。

縦軸は、弾性値から粘性値を引き算した値とします。
よって、正であれば弾性体(固体)より、負であれば粘性体(液体)よりというように
物体の状態を示すことになります。

以上のように置き換えてみた図から、物体A君とB君を比べた場合、
  ・A君は弾性体よりでやわらかい
  ・B君は粘性体よりでかたい
という見かたになります。

では次に、以下の表を用いて、粘弾性の測定に置き換えて説明をしたいと思います。

ここでは、国語の点数を弾性率、数学の点数を粘性率に変えており、合計であった
粘弾性値はこの先、複素弾性率と呼ぶようにします。


複素弾性率は、傾向は合計点と同じであるものの、値そのものは変わってしまって
いますね。

ではまた図を用いて説明したいと思います。


この図は、横軸に弾性(国語)、縦軸に粘性(数学)をとり、複素弾性率(合計)は
原点からのベクトルの長さで見ます。

上図から、複素弾性率は三平方の定理
    複素弾性率 = √(x^2 + y^2)
から求まるため、単純に弾性と粘性を足し合わせた値にはならなかったのです。

幾何学的には以上のように求まりますが、複素弾性率の「複素」は、複素数の「複素」
ですので、複素弾性率は、
    複素弾性率 = x + iy
として、虚数を用い一つの数字であらわされます。


いかがでしょうか。


最後の方で複素数、虚数、といったキナ臭いものが登場しました。
実際、このあたりも、粘弾性を難しいものだと印象づけている感は否めません。

しかし、粘弾性を測定するときは、虚数だから、とか、複素数だから、とか、いちいち
そんなことは考えないので、心配はまったくいりません。
単に物体のかたさを、横成分、縦成分として2成分わけしているだけです。

それでも頭がゴチャゴチャするという方も見受けられます。

でも、冷静に考えれば、たかだか2次元的にデータを見ているにすぎません。
実験データの分析手法でも、はやりの人工知能でも、もっともっと多次元のデータ解析
は、実は身近にあります。

過度に難しいと感じるのは「錯覚」だと思います。


とは言っても、成分分けすることがどのように役立つのか、実例などがないとイメージ
はつかないと思いますし、粘性と弾性、それぞれの定義も少しだけ掘り下げる必要が
あると思います。

それはまたの機会にしたいと思います。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。