2019年9月15日日曜日

粘弾性について8)_伸長粘度はなぜ3倍? ~その2~_伸長ひずみを掘り下げる


前回は、ひずみの形態として、せん断ひずみと、伸長ひずみの定義について解説を
しました。

今回は、伸長ひずみについて、さらに掘り下げてみたいと思います。


まず、伸長ひずみの仲間を紹介したいと思います。
前回のブログでは、一軸延伸による伸長ひずみを説明しました。


この図から、なにかお気づきになりませんでしょうか。

伸長ひずみでは、引っ張ったり、縮めたりという「主軸」の変化に連動し、他の
軸も、伸びる、または、縮むといった変化が起きています。

ひずみが大きくなっても、物体の体積は一定ですから、どこかが伸びたら、どこかが
縮む、当然といえば当然ですね。
このことは、伸長ひずみを理解するうえで、大変重要なポイントになります。

例えば、下図のような物体に、一軸延伸による伸長ひずみを与えます。


体積が一定のとき、引っ張り長さ(L)の変化に対する、幅(D)は以下のように変化
します。
体積は、L × D^2 で、どこまで伸ばしても一定のはずです。
幅は、二乗で効いたDを、平方根で割り戻すことになるので、Lが大きくなるほど
変化が小さくなります。


伸長ひずみの計算のおさらいと、「ポアソン比」について説明します。


ここで、前回のブログのとおり、伸長ひずみ量は、(l - l0) / l0 でしたね。
伸長ひずみ量のシンボルを、ε とします。

幅方向のひずみ量も、同じように、(D - D0) / D0 で求めることにします。
幅方向の圧縮ひずみ量のシンボルを、ε' とします。

上記、引っ張り長さと、幅の関係を示したグラフを、ε'と、ε に置き換えたのが、
下図です。
なお、ε' は、収縮によって生じるひずみのため、マイナスの値をとりますが、
符号は気にする必要はなく、絶対値であつかえば良いです。


ひずみ量が小さい領域では、グラフは、ほぼ正比例であり、ε' は、ε の、ほぼ0.5倍
であることがわかります。

ε' / ε でとった比を、「ポアソン比」といいます。

・変形時に体積変化が伴わず、
・小ひずみ量 領域においては、
ポアソン比 = 0.5 であるとして、

       ε' = 0.5ε
       ε  = 2ε'

で、お互いに換算できるということになります。
幅方向のひずみ量から、延伸方向の伸長ひずみ量に換算できる、ということは、
伸長ひずみによる粘度や弾性率を測定するときに、実は、不可欠です。



今回、伸長ひずみのメカニズムの、第一歩に踏み込みました。

とりあえずは、物体に、変形、ひずみを与えたとき、断面積が変化する変形は、
伸長ひずみであると理解をしておいて、差し支えないと思います。

せん断ひずみは、変形の大きさに伴い、断面積(厚みや幅)の変化は、発生して
いないことが、前回の、せん断ひずみの図からも、わかると思います。

この差は、粘度測定により、物質の評価を行う際、大きな差を生みます。

このことは、まずは、「伸長粘度は、せん断粘度の3倍」であるところまで、たどり
着いてから、取り上げたいと思います。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


2019年9月14日土曜日

粘弾性について7)_伸長粘度はなぜ3倍? ~その1~_せん断ひずみと伸長ひずみ


これまでの、「粘弾性について」シリーズでは、肩ならし? ウォーミングアップ ?
のため、少し定性的な方向で話をしてまいりました。

この先、少しずつ、科学的な定義にも触れながら、話をしてまいりたいと思います。

そのようにしないと、話が進んでいくにつれ、逆に説明が難しくなることもあるため
です。


今回は、「ひずみ」について取り上げたいと思います。

シリーズ化したサブタイトル、「伸長粘度はなぜ3倍?」を終着点にするための
第一歩として、取り上げようと思いました。


粘弾性について3)_粘度と弾性率の定義のなかで述べられている、

       粘性係数 = 力 / 速度
       弾性係数 = 力 / 変形の大きさ

について、
  ・「速度」とは、ひずみの大きさが変化する速度
  ・「変形の大きさ」とは、ひずみの大きさ
を意味します。

では、「ひずみ」とはなにか、定義について説明します。


ひずみにはいくつかの種類がありますが、このシリーズでは、「せん断(ずり)」
ひずみと、「伸長」ひずみの2つについて説明します。

いずれにしても、ひずみとは、物体の変形の大きさを比で表したものです。


まず、せん断ひずみについて説明します。




せん断ひずみとは、上図のような立方体要素を、トランプをずらすかのように、
上面と底面をたがいちがいにスライドさせる変形です。

力Fをあたえ、Δxのずれを与えたとき、
Δxと、物体の厚みΔyの比、Δx/Δy (=tanΘ) がひずみの大きさ、ひずみ量です。

Δxも、Δyも長さ単位を持ちますので、ひずみ量は無次元単位になります。
なお、100を乗じて%であらわす場合もありますので、単位を確認するようにして
ください。

なお、ずらすのにかけた力Fを、面積Aで割り算したものがせん断応力です。

応力の単位は、
       Pa(パスカル) = F[N(ニュートン)] / 面積[m^2]

前述の通り、
       弾性係数 = 力 / 変形の大きさ

ですので、
       弾性率[Pa] = せん断応力[Pa] / ひずみ量[-]

になります。

なお、せん断ひずみにより測定する弾性率、「ずり弾性率」のシンボルは、「G」が
用いられることが多いです。

次に、このひずみ量を時間(秒)で割り算すると速度になり、これを、せん断速度
と呼び、秒あたりに発生したひずみの大きさになります。

       せん断速度[1/s] = ひずみ量[-] / 時間[sec.]

せん断速度の単位は、1/s であり、粘度測定をされている方は、インバースセック
(秒の逆数)という言葉を使ったり、聞いたりするのではないでしょうか。

前述の通り、
       粘性係数 = 力 / 速度

ですので、
粘度[Pa・s] = せん断応力[Pa] / せん断速度[1/s]

になります。


次に伸長ひずみについて説明します。



伸長ひずみとは、上図のような立方体要素を、直方体に延伸させる変形です。

力Fをあたえ、Δlの延伸を起こしたとき、Δlと、物体の元のながさl0の比、Δl/l0 が
ひずみの大きさ、ひずみ量です。

Δlも、l0も長さ単位を持ちますので、ひずみ量は無次元単位になります。
せん断ひずみ同様、100を乗じて%であらわす場合もあります。

なお、延伸するためにあたえた力Fを、面積Aで割り算したものが引張応力です。
以下は、せん断ひずみの時と同じですが、復習もかねて解説します。

応力の単位は、
       Pa(パスカル) = F[N(ニュートン)] / 面積[m^2]

前述の通り、
       弾性係数 = 力 / 変形の大きさ

ですので、
       弾性率[Pa] = 引張応力[Pa] / ひずみ量[-]

になります。

なお、伸長ひずみにより測定する弾性率は、ヤング率という呼ばれ方で、聞き覚えの
ある方も多いかもしれません。

「伸長弾性率(ヤング率)」のシンボルは「E」が用いられることが多いです。

せん断ひずみ同様、このひずみ量を時間(秒)で割り算すると速度になり、これを、
伸長ひずみ速度と呼び、秒あたりに発生したひずみの大きさになります。

       伸長ひずみ速度[1/s] = ひずみ量[-] / 時間[sec.]

よって、伸長粘度は、
       粘度[Pa・s] = 引張応力[Pa] / 伸長ひずみ速度[1/s]

になります。



流体用の回転粘度計は、せん断ひずみによる測定が主流です。
引張試験機では、呼び名のとおり、伸長ひずみによる測定です。

しかし、変形は、これらの変形形態が複合的に発生します。

サブタイトルにもなっている、伸長粘度はせん断粘度の3倍、を理解するためには
せん断ひずみと、伸長ひずみが、それぞれ、相互的に関係していることを理解する
必要があります。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

伸長粘度はなぜ3倍? にたどり着くまで、一歩一歩進んでいきたいと思います。


2019年9月3日火曜日

【実測シリーズ】緩和時間の測定


過去の投稿で、「緩和」について説明をいたしました。

粘弾性について4)_万物は流転する
粘弾性について5)_緩和について


今回は、緩和曲線を得るための簡単な試験機を作成し、緩和時間を測定してみた結果
をシェアさせていただきたいと思います。


試験機の概要を示します。




測定の手順は、以下の通りです。
なお、サンプルにはシリパテを用いました。

1.サンプルを一気に押し込む
2.荷重値がゼロになるまで計測
3.荷重値が37%に減衰する区間の時間(緩和時間)を確認
4.応力緩和の式(粘弾性について5)_緩和について)に代入しフィッティング
  曲線を得る


以下に、結果を示します。




ドットでプロットされているのが、生の測定データです。
実線がフィッティング曲線です。

測定の後半、低荷重域で生データとフィッティング曲線のずれが大きくなっています
が(低荷重測定の感度の問題、測定開始直後との接触面積の違いなど、いくつか要因
が思いつきます)、概ねよくフィッティングしていると思います。

また、測定開始直後は、値がすべて4000程度を示していますが、センサの測定範囲
を超えているため、飽和してしまっています。

これらのように、実際の測定においても、例えば、センサの感度、時間分解能といった
装置要因による制約で、測定したいところが測定できない、ということは起き得ます。

また、きわめて長時間かけて緩和する物体も多々あるため、測定が長時間におよんで
しまうこともあります。

しかし、このように、ある区間の計測をすることで、短時間、長時間の緩和挙動を
予測することができます。



また、ステージ温度を3水準振って実験を行いましたが、結果からは、温度が高い
ほど、応力曲線の減衰がはやいことがわかると思います。

以下に、緩和時間と測定温度の関係を示します。




例えば樹脂の成形加工などのように、温度と緩和時間の関係を知ることは大変重要
ですが、緩和に長時間かかる場合、このように温度をあげて測定することで、測定
時間の短縮も可能です。

このように、温度と時間には一定の関係性があり、これを「温度-時間換算則」と
いい、レオロジーでは重要な概念の一つです。



いかがでしょうか。

緩和時間には、自然対数(ネイピア数)が出てきたり、応力緩和のモデル式には、
指数関数が含まれていることから、苦手意識をもつ方もいるかもしれません。

しかし、モデルそのものは決して難しいものではない、と思っていただくきっかけに
なれば幸いです。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


粘弾性について5)_緩和について


先月、レオロジー講座の講師を務めさせていただく機会がありました。
長時間の講座であったため、その資料作成に追われていたり、新商品の準備に
追われているうちに、前回の投稿から、しばらく時間があいてしまいました。


前回の投稿、粘弾性について4)_万物は流転する では、レオロジーにおいては、
すべての物体は、流体であり、流動速度がはやいか、おそいか、の違いだけである。

極論的にはこのように説明をしましたが、流体か固体かを判断するときの指標となる
数に、デボラ数というものがあります。

       デボラ数 = 緩和時間 / 観察時間

今回は、「緩和」とはなにか、について説明をします。


緩和現象の観察には2つの方法があります。



一つは、上図の左の例のように、例えば物体に、一定の荷重または力を与えて、
その変形量の変化を観察する方法です。

もう一つは、上図の右の例のように、一定の変形を与えたときの力の抜け具合を
観察する方法です。

左の例を、「クリープ試験」といい、
右の例を、「応力緩和試験」といいます。


クリープ試験では、試験開始時においては、変形が生じない程度の荷重、または
力であること。

応力緩和試験では、試験開始時においては、力を開放した時、変形した物体がバネ
のように、もとの形状に回復する程度の変形であること。

これらが試験条件になります。

いずれの方法においても、時間の経過とともに、例えば樹脂であれば、絡み合った
高分子が緩やかにほどけ、金属であれば、金属イオンにずれが生じるため、与えた
荷重や変形に応じた形状に、徐々に「ならされていく」ことになります。

この挙動が緩和であり、高分子がほどけたり、金属イオンがずれることは流動と
言いかえられます。



ここからは、緩和時間について説明したいと思います。
緩和時間とは、制御系では時定数と呼ばれ、クリープ試験における遅延時間と同義
です。

起点とするある時点での状態が、約37%にまで状態が減衰するのにかかった時間
です。

この37%というのは、

       ネイピア数(e) ≈ 2.7 の逆数、約0.37

から来ています。


応力緩和試験における、応力の減衰曲線を下図に示します。


例えば指で、ある物体に一定の変形を与えたとき、与えている力は上図のような
曲線に従って抜けていきます。

このグラフの中で、応力が37%に減衰した区間、どこを切り取っても、同じ時間の
長さ(緩和時間)を示します。
放射能の半減期と同じような見方ですね。


次にクリープ試験における、ひずみ(変形)曲線を示します。


変形と力は表裏一体です。
力ではなく、変形量を観察するクリープ試験では、

       1-0.37 = 0.63

であり、ある基準とする変形状態の、約63%の変形量に達するまでにかかった時間
をしらべます。
この時間を遅延時間と呼びますが、緩和時間と同義です。

応力緩和試験同様、63%に達する時間領域、どこを切り取っても、同じ時間の長さ
を示します。



これで、前述のデボラ数の式、緩和時間がわかりました。

一方で、観察時間は、観察者、つまり、作業者や設計者が定めなくてはなりません。

また、デボラ数、いくつ以上を固体として扱うか、いくつ以下を流体として扱うか
についても、観察者が定めなくてはいけません。

観察時間は、例えば工業的には、商品の耐久年数、製造においては、ある加工や流動
を材料に与えるときの速度や、次の工程に進めるまでの時間などでしょうか。



動的粘弾性の測定は、粘弾性変化の、時間との関係性を調べることが目的であり、
この時間というのが、緩和時間のことにほかなりません。

緩和のイメージをつかんでいただければ、幸いです。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


2019年5月15日水曜日

【実測シリーズ】撹拌型 粘性評価器 SVE-1 を用いた「とろみ剤」の測定


前回の投稿以来、少し時間があいてしまいました。

今回は、攪拌型粘性評価器SVE-1を使って、とろみ剤水溶液の粘性を評価してみた
内容を、「実測シリーズ」として取り上げたいと思います。


SVE-1は、センサを内蔵した専用の測定スティックを用いて測定者の攪拌動作から流動
抵抗を検出し、回転数に応じた流動抵抗値や近似粘度を求めることができます。

装置の紹介ページはこちら


とろみ剤は、ジュースやスープなどに溶かし入れ、とろみをつけて飲みこみを容易にし、
誤嚥を防ぐ目的で用いられます。

とろみ剤は、カンキツ類やリンゴなどを原料としたペクチン、マメ科の植物から抽出
したグァーガム、微生物が生成するキサンタンガムを主原料としたものなど、
さまざまな種類があります。
多くは、粉末状の食品添加物として販売されています。


誤嚥によりひきおこされる肺炎は、高齢者の死亡原因としてかなり上位に位置します。
とろみ剤は、高齢化社会の現在、市場で注目されています。

嚥下補助食分野では、液体のとろみの強さは、3段階に分類されており(表1)、
とろみ度合の大きさを粘度で規定しています。
各とろみ剤メーカは、この粘度値をもとにとろみ剤の分量(目安)を定めています。


【表1
とろみの強さ
粘度(mPa.s)  
薄いとろみ
50~150
中間のとろみ
150~300
濃いとろみ
300~500
※日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類2013(とろみ)より
※粘度は、プレート型粘度計を用いて、測定温度20℃、せん断速度50sec-1における値とする。



今回、とろみ剤を添加する液体は常温の水とし、とろみの強さに応じた種々のとろみ
液体の粘度を測定しました。

とろみ剤の投入量や調整方法についてはメーカが推奨する手順にならい、使用方法の
概要は以下のとおりです。
なお、攪拌の際は、SVE-1の専用スティックを用いて攪拌しました。

・液体にとろみ剤を投入したら、すぐに攪拌する(30秒程度)
・攪拌してから2~3分放置するととろみがつく


図1~3に、とろみ剤の添加量ごとの結果を図示します。
図中には、それぞれ攪拌中および攪拌後3分放置後の粘度を比較しています。
縦軸は粘度(単位:mPa.s)、横軸は測定時間()です。


            【図1


            【図2


            【図3


いずれの添加量においても、攪拌に伴い粘度が徐々に増加していることがわかります。
このことは、攪拌動作中に流動抵抗が増していく感覚とも一致しています。

また、いずれの添加量においても攪拌後3分放置することで増粘していることから、
メーカの使用方法にあるとおり、時間をおくと、とろみがついていくことがわかります。


添加量の違いごとの粘度値を、図4にまとめました。
添加量の増加に伴って粘度も高くなっており、たしかにとろみが強くなっていることが
わかります。


            【図4


なお、今回SVE-1で測定された粘度はいずれもとろみの分類(表1)で提示されている
粘度より高くなっています。

これは、SVE-1で測定したときの攪拌によるせん断速度(回転数としては約4回転/秒)
と、とろみ分類で規定された粘度のせん断速度条件(50sec-1)が異なるためだと考え
られます。

なお、定められているせん断速度(50sec-1)は、流体食品が、人間の咽喉を流れる
ときの速度を根拠としているようです。

とろみ剤溶液は、いわゆる「非ニュートン」性をしめし、せん断速度の増加に伴って
粘度が減少する性質があります。(図5参照)
攪拌動作は、せん断速度に換算するとおそらく50sec-1よりも低いのではないかと
考えられます。


            【図5】とろみ剤のせん断速度と粘度の関係のイメージ


ところで、とろみ剤でとろみのついた飲み物について、少し時間をおいてから飲む
というケースもあるかと思います。

その際、時間経過によってとろみが変わってしまうようでは、再度調整する必要が生じ、
利便性に欠けるため、とろみは、変わらずに安定していることが望ましいです。

そこで、中間のとろみ(1.8g)に調整した、とろみ剤水溶液について、攪拌直後からの
粘度の経時変化を調べてみました。(6)

この結果では、3, 10, 20分後において粘度はほぼ同等であり、とろみは安定・保持
していることがわかりました。


            【図6


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

このブログでは、「実測シリーズ」として、今後も、測定データを掲載した内容を、
投稿したいと思います。

2019年4月2日火曜日

粘弾性について4)_万物は流転する


粘性や、弾性、物体の流動や変形に関する学問を、Rheology(レオロジー)と呼びます。
呼ばれているところは聞いたことがありませんが、日本語では、「流動学」と呼ばれる
ようです。


紀元前5~6世紀ころの、ギリシアの哲学者、ヘラクレイトスは、
「panta rhei (万物は流転する)」
という言葉を残したそうです。


ニュートンが、ニュートン力学体系を解説した、かの有名な「プリンシピア」の中で、
ニュートンの粘性法則を提起したのが、1687年。

フックは、1678年、著作「復元力についての講義」の中で、フックの法則について論証
し、また同著の中で、フックの法則を、1660年に発見したと記しているようです。

このレオロジーの2大法則の発見から、200年以上のちの、1920年、ユージン ビンガム
は、ヘラクレイトスの言葉に、接尾辞として、学問を意味する「-logy」をつけて、Rheology という造語を作り、学問としての体系化に貢献しました。

ヘラクレイトスは、物体の変形や流動を意味して、「万物は流転する」という言葉を
残したのではないと思いますし、
ニュートンと、フックも、それぞれが発見した法則が、一つの学問のなかで合わさり、
骨子となるとは、思ってもいなかったと思います。


ビンガムが、ヘラクレイトスの言葉から、Rheologyという言葉を作ったのは、おそらく
「万物は流転する」という言葉が、レオロジーの本質をついていたからだと思います。


ある物体が固体なのか、液体なのか、その定義は、専門とされる学問の分野それぞれで、
異なると思います。

レオロジーでは、物体はすべて流体であるという視点にたっています。
つまり、「万物は流転する」です。


例えば、氷河を一目見たいと、観光で訪れ、数時間程度、氷河の観察を堪能しました。
氷ですから当然、カチカチの固体です。観察中、なんの変化もありませんでした。
なぜ、流れもしないものを、「河」と表現しているのか、とも思えてきます。

しかし、実際には、氷河は一年に数メートル程度、流動しているそうです。
10年であれば、数十メートル、流れていくことになります。

もし、目の前に普通の河川があり、ぷかぷかとボールが流れていくさまを、数十メートル
ていど、ぼんやりと目で追っていたとします。
おそらく、その時間は、数秒から、数十秒程度でしょう。

このさまをみて、当然、水は流体、と思うはずです。

数十メートルを、数秒から、数十秒程度で流れるものを、流体と定義し、10年で数十
メートル流れるものは、流体として認めない。

この考え方はアンフェアだ、というのが、レオロジーの立ち位置です。

十年という観測時間が長いのか、短いのか、それは目的や人それぞれです。

例えば、十年で数十メートルに相当するくらい変形してしまうような材料は、ふつう、
工業的な用途には適しません。
そのような目的では、その物質は、流体としてとらえた方が良いわけです。


どのような物体も流動しています。速いか、遅いかの違いだけです。
ただし、速い、遅いの閾(しきい)について、神様は差別をしていません。
それが固体なのか、液体なのかは、その物体が変形した大きさと、それを観測した時間を
比べて、それぞれの目的をもとに、その人の判断で決めてください。

レオロジーでの定義では、このように解釈されます。

これは、緩和(時間)という、物体の挙動を理解する必要がありますが、緩和については
またいずれの機会で説明をしたいと思います。


また、レオロジーでは、時間と温度は等価である、という、ユニークな視点があります。

例えば、どうしても短時間で、氷河の流れを見たい時にどうするか。
熱して水にして、その流れを見れば、氷河が長時間の中でどのように流れていくかが
わかります。

逆に、氷のかたさを、水の状態から知りたい場合はどうするか。
素早く、水の表面を手で打ちつけてみる。

この考え方は、温度-時間換算則と呼ばれますが、これもまた、いずれの機会でとりあげ
させていただければと思います。


過去の投稿
  粘弾性について1)_学校の定期試験を例にとった説明
  粘弾性について2)_固体はかたい、液体はやわらかい?
にて、粘弾性の測定は、液体成分と、固体成分に成分わけされた弾性率の情報から、
かたさとともに、物体が液体的か、固体的かを教えてくれると説明しました。

今回の投稿では、

液体的か、固体的か、は、観測する時間によって変わる。
そして、どんな物体も、長時間の観測のなかでは、流動している(液体成分が支配的に
なる)。
その流動に向かっていく物体の挙動を、緩和と呼ぶ。

ということを説明いたしました。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


2019年3月27日水曜日

粘弾性について3)_粘度と弾性率の定義


これまでの投稿で引っ張ってきた今回のタイトルに、ようやくたどり着くことが
できました。


初回の投稿、粘弾性について1)_学校の定期試験を例にとった説明 の文頭でも
述べましたが、粘性と弾性は、別の物性です。

「粘弾性」という物性は、粘弾性について1)_学校の定期試験を例にとった説明
で説明したとおり、複素数を用いて、粘性成分と弾性成分を合成し、あらわします。

つまり単独では存在しない物性、ということになります。


粘性の定義は、ニュートンの流動法則に基づき、
    力 =  粘性係数 × 速度
としてあらわされます。
この法則は、一般的に液体としてとらえられる物体が、対象となります。

本来、力とは応力であり、速度とはひずみ速度と定義されますが、どのような応力か、
ひずみとは何か、については、ここではふれません。
またの機会とさせていただければと思います。

とりあえずイメージとして、
  ・力を、ボートのオールを漕いだ時の力
  ・速度を、液体の流動速度(上述、液体を掻いたオールの速度、でもよいです)
のように持っていただければと思います。

上記の式を変形すれば、
    速度 = 力 / 粘性係数
となりますので、粘性が小さい液体に対し、大きな力を与える条件では、
流動が速くなる。
ということは、イメージしやすいのではないかと思います。

いずれにしましても、力と速度は、比例関係であるということがポイントです。


一方で、弾性の定義は、フックの弾性法則に基づき、
    力 = 弾性係数 × 変形の大きさ
としてあらわされます。
この法則は、一般的に固体としてとらえられる物体が、対象となります。

ここでも、やはり、力は応力をさし、変形は、ひずみとして定義されますが、説明に
つきましては、またの機会とさせていただければと思います。

とりあえず、
  ・変形を、消しゴムとかグミキャンディーを、指で押してみたときの変形
  ・力を、その時の力の入れ具合
を、イメージとして持っていただければと思います。
  
上式を変形しますと、

       変形の大きさ = 力 / 弾性係数

となりますので、やわらかい(弾性係数が小さい)ものに、力をこめるほど、おおきく変形する、ということでイメージしやすいのではないかと思います。

ここでは、力と変形の大きさが、比例関係である、ということがポイントです。


粘性係数、弾性係数を求めるための式、

       粘性係数 = 力 / 速度
       弾性係数 = 力 / 変形の大きさ

ですので、変数がそれぞれ、速度と変形の大きさで異なっており、粘性と弾性は
まったくの別物性だということがわかります。


例えば、上述の、オールで液体を掻く、という情景で、その液体が水であれば、掻かれた
液体は流動している、とイメージできます。
しかし、水ではなく、スライム状の物体であったとき、流動なのか、変形なのか、
どちらかに明確に切り分けることは、難しいのではないでしょうか。

このような時、粘弾性の出番になります。

粘性と弾性、まったく別の物性を、粘弾性として、さも一つの物性であるかのように
みなそう、という方法は、独特であると同時に、大変な実用性を感じます。

また、粘弾性に限らず、現実的には、例えば、潤滑油を塗布した面が、他の面とこすれ
あうとき、こすれの抵抗は、摩擦係数で評価すべきなのか、潤滑油の粘性から評価する
べきなのか、明確な切り分けができない現象は、たくさんあるのかもしれません。


粘性と弾性、それぞれのモデルを用いた図説、
「ひずみ」と「応力」について、
これらは、またの機会に触れていきたいかと思います。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


2019年3月25日月曜日

毛細管現象_最初の発見者は誰??


これまでの投稿の中で、粘性と弾性の定義についてはいずれ掘り下げたいと、先送り
してまいりました。。

粘性については、ニュートンの流動法則。
弾性については、フックの弾性法則。

これらの定義を少しレビューしていたところ、ニュートンとフックには、毛細管現象
の発見という点でも、共有テーマがあることがわかり、急きょ今回の内容を変更して
しまいました。

粘性と弾性の定義については、またこんど、掘り下げてみたいと思います。


毛細管現象については、ヤングとラプラスが、1805年、同年に、それぞれが出版した
著書により、明確に理解されるようになりました。

ラプラスの著作は、液体の凹凸(メニスカス)を扱った自由表面などの観点から、
より解析的な内容であったのに対し、
ヤングの著作は、気体、液体、固体の間、熱力学的な相が関係する現象、という観点
から、数式が用いられない定性的な内容でした。

同年に出版された二つの著作は、このような点で対比されたりもしていますが、この
ヤングの著書で、初めて表面張力について述べられたようです。

ちなみに、上記のヤングの観点は、今日では「ぬれ」という分野に分類されるもの
ですが、「ヤングの式」をもちいて、ぬれ現象を説明したのは、この後の著作のよう
です。


ニュートンは、自身の著作である「光学」(1704) の中の、「Queries」という章で、

「2枚のガラス板を100分の1インチの距離に平行にならべて水の中に立てると、
水がこの2枚の板の間を約1インチ上昇する」

ということを確かめた、ということが、上記のヤングの著作の中で、述べられているよう
です。

このニュートンの説明は、まさに毛細管現象を観察した内容ですが、ヤングとラプラスの
著書の出版以前、100年も前のことです。


ところが、フックは、さらにその40年以上前の1661年、「毛細管現象論」を出版して
います。「毛細管現象論」はフックの最初の著作でもありました。

この著作の中で、
  毛細管の中に液体が上昇していくのは、管内と外側の気圧差のせい。
  気圧差が生じるのは、空気とガラスの相性が悪く、ガラス管の内部に空気が入り
  込みにくいから。
  この相性の良し悪しは、水と油が混ざらないこと、溶解や沈殿の原因にもなって
  いる。
と記しているようです。

ラプラスは、毛細管現象を圧力差から、ヤングの式は、気体、液体、固体、3相の相性
を説明しています。
フックは、ヤング、ラプラスの出版以前、150年も前に、すでに同じような着眼点を
持って毛細管現象を理解していたのだと感じます。

また、水と油の相溶(乳化)、溶解・沈殿(分散)には、物性として、表面(界面)
張力、接触角が、深く関係しています。
毛細管現象とこれらの現象を、ぼんやりとながらイメージできていた、表面張力の
概念を介して、関連づけ、理解をしていたのかもしれません。


ちなみに、出版物にはなっていないようですが、研究史の中で、毛細管現象を最初に
観察し、記録を残したのは、レオナルド・ダ・ヴィンチであるという説があります。
膨大なCodex(手稿)の中に、記録が残されているのではないかと想像します。



今回、ニュートンの粘性法則と、フックの弾性法則のとりかかりから、話がそれた形で
毛細管現象にふれました。

フックについては、フックの弾性法則以外、人物像も含め、あまり詳細がわからない
という印象がありました。
実は、ヤングとラプラスに先がけ、近代研究史の初期の段階で、毛細管現象について、
ユニークで、鋭い視点から説明していたことがわかりました。

同じ時代に活躍した、ヤングとラプラス。それと対照的に、同じ時代を生きたニュートン
とフックには、深い確執があったともいわれているようですが、粘弾性を理解するうえ
で、ニュートンの法則とフックの法則の理解は、等しく重要だと思います。
このシンプルな古典物理の法則の理解がほぼすべて、というようにも思います。


なお、「毛細管現象論」の4年後である1665年に、フックが出版した
「ミクログラフィア」は、現在でも入手可能なようです。
「毛細管現象論」で説明した内容の大部分は、この著書で知ることができるようです。
この機会に、ぜひ一度、読んでみたいと思いました。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


2019年3月20日水曜日

粘弾性について2)_固体はかたい、液体はやわらかい?


前回の投稿から、連投しています。
ブログを立ち上げたばかりなので、モチベーションが高いせいかもしれません。
継続していくよう頑張っていきたいと思います。


今回のタイトルのような印象をお持ちの方が、いがいと多いのではないかと思います。
たしかに、

  固体というと、岩とか、金属とか、そんなものが思いうかび、
  液体というと、やはり水とか、せいぜいトロッとした程度のものを思いうかべます。


つぎに、固体と液体の、特徴や性質をあげてみたいと思います。
いろいろあると思いますが、例えば、

  ・固体は、角(かど)がある、つのが立つ、形状を保持する、われる
  ・液体は、しみこむ、ぬれる、丸くなる、水平になる、不定形

のようなことをあげられます。
それぞれが、逆の特性を持っているように思います。

では、この特徴に、「かたい」、「やわらかい」を加えることは妥当でしょうか。


ここで、寒い冬場、または冷蔵庫から取り出したばかりの水あめを、想像していた
だきます。
その水あめに人差し指をつっこんで、そのまま混ぜてみようと思った時、相当な抵抗
を受けることは想像にかたくないと思います。

つまり「かたい」ということであり、粘度が高い、ということになります。

それでも、ビンをさかさまにすれば、ドローっとジワリと流れ出てくるでしょうから、
固体の代名詞的な、岩とか金属と比べれば、やはり液体だからやわらかい、という
結論になるかもしれません。


では次に、今日はお祝いでケーキを食べようと、ショートケーキを買ってきました。
あまりにおいしそうでがまんできず、ついついホイップクリームに指をつっこんで、
ペロっとなめてしまいました。

ホイップクリームに指をつっこんだ時に受けた抵抗(心理的な抵抗ではなく)は、
水あめの時よりも明らかに小さいということは、想像にかたくないと思います。

つまり「やわらかい」ということであり、粘度計で測定してみた場合、粘度が低い、
という結果になるはずです。


ここで、指をつっこんだ時の抵抗の強さを整理してみたいと思います。
    岩とか金属 > 冬場の水あめ > ホイップクリーム
少なくとも冬場の水あめが液体という判定ですので、それよりもやわらかいホイップ
クリームは液体ということになると思います。

この結論は正しいのでしょうか。


ここで、ショートケーキ用のスポンジに、粘度の高い(かたい)水あめと、粘度の低い
(やわらかい)ホイップクリームを、それぞれ塗りたくってみる、という思考実験を
行ってみます。

水あめのケースでは、ドローとスポンジの上にのった後、ベトーっとスポンジにしみ
こんでいく像が思いうかびます。

ホイップクリームのケースでは、まさにお店で売っているショートケーキの像が思い
浮かびます。
ホイップクリームは、しみこむこともなく、星型にそったようなスジがのこり、つの
や角(かど)が立った状態を何時間でも、あるいは日にち単位で保持しますね。

このホイップクリームの特性は、前述した固体の特徴の通りではないでしょうか。


さて、このように、やわらかくても固体、かたくても液体、はどのような物性から評価
したらよいのでしょうか。

粘度計で測定をしてみましょう。結果を下図に示します。


縦軸は粘度値で単位は mPa・s です。
粘度値が100倍程度に異なった結果になっています。

一応、断りを入れておきますと、今回、実測は行っていません。
書籍やインターネットで調べ、おおむね代表的とおもえる値でグラフを作りました。
特にホイップクリームについては、使用する油脂や、空隙(くうげき)の違いなどで、
数十~数百 mPa・s くらいの幅で、粘度値は異なるようです。

ここでは、おおざっぱに100倍くらい粘度値が違う、と思っていただければと思います。

粘度測定の結果から、ホイップクリームのしみこみにくさや、角の立ちやすさを
比較したり予測するのは難しそうですね。
例えば食品の中で、とんかつソースは、数百 mPa・s くらいですが、同じような粘度値
であっても、ホイップクリームとは明らかに異なった特性を持っていますよね。

逆に、ホイップクリームですらしみこまないのだから、それよりも高い粘度値をもつ
水あめはしみこまない。という評価も早計だと思います。


ここで粘弾性による評価の出番です。
結果を下図に示します。
*ホイップクリームの値が、水あめに対し小さぎてグラフ上で見えなくなって
しまうため、便宜上、水あめの値を上記の棒グラフで示した値の1/10にしています。
また、こちらの結果も実測値ではありません。


このグラフの見かたは、「粘弾性について1)_学校の定期試験を例にとった説明」
レビューしていただければと思います。

簡単に説明をいたします。

平面上、両サンプルのベクトルの長さがサンプルのかたさで、誤解を恐れずに言えば、
先に示している棒グラフと同じ長さを持っていると思ってください。

棒グラフとの違いは、ベクトルですので向きを持っています。
そのため、ベクトルの長さである総合的なかたさの値を、横成分と縦成分に分けることが
できます。

ここで、
    横軸は弾性値を示し、固体としてのかたさをあらわします。
    縦軸は粘性値を示し、液体としてのかたさをあらわします。

水あめのほうが、ベクトルが長いため、ホイップクリームよりも圧倒的にかたい、という
ことがわかります。
粘度測定の棒グラフと同じ長さなので、100倍かたい、ということになります。

一方で、グラフの傾きが大きく、垂直に近いため、かたさの内訳は粘性が大半をしめる
ことから、物体の状態としては、液体である、ということを同時に示しています。

ホイップクリームに着目しますと、ベクトル自体は短いものの、傾きが小さいこと
から、粘性成分は小さく、状態としては、固体である、ということを示しています。

ちなみに、とんかつソースを測定した場合、ベクトルはホイップクリームと同じくらい
の長さを持ち、傾きが、おそらく水あめほどではないにしても、液性を示すくらいに
大きいのではないかと予測します。


前回投稿した、「粘弾性について_学校の定期試験を例にとった説明の試み」をサポート
するつもりで書きました本稿、いかがでしたでしょうか。

前回も文末に書きました通り、粘性と弾性、それぞれの定義については掘り下げる必要
があると思います。
また、成分分けのご利益(りやく)は多少わかっていただいたものと思いますが、
ベクトルの向きはどのように測定できるのかが気になりますね。

それはいずれ、またの機会にしたいかと思います。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


粘弾性について1)_学校の定期試験を例にとった説明


初回の投稿にあたって、何を取り上げるかをしばらく考えていましたが、粘弾性を取り
上げることにしました。


粘性と弾性は全く別の物性です。
粘弾性という物性は、単独では存在しません。

粘性にしろ、弾性にしろ、物体のかたさをあらわしているという共通点がありますが、
ここでは、粘性は液体のかたさ、弾性は固体のかたさ、を示す物性だと思ってください。

実際に物体は、粘性的な要素と弾性的な要素をあわせもっています。
粘性か弾性、どちらかだけでは物体のかたさを評価することはできません。

言い換えれば、純粋な粘性体(液体)、純粋な弾性体(固体)というのは存在しない
ということになります。

単独では存在しない粘弾性、、、このイメージがずっとつかない、という方がたくさん
いるように思います。


ここでは基礎以前の基礎として、イメージをつかんでいただくために、抽象的な説明を
いたします。


学生であるA君とB君の定期試験の結果を表にしました。


受験に備え、そろそろ、志望校のレベル、文系、理系を決めなくてはなりません。

そこで、2人の成績を、
  ・合計点を横軸
  ・国語の点数から数学の点数を引き算した値を縦軸
という見かたでグラフ上にあらわしました。


合計点である横軸は、総合的な学力をあらわします。
縦軸は、国語の点数から数学の点数を引き算していますので、正であれば文系より、
負であれば理系より、ということになります。

いかがでしょうか。
いったい、これが粘弾性となんの関係があるのか・・・?


このグラフの横軸を粘弾性値とします。
これは物体の総合的なかたさをあらわすことになります。

縦軸は、弾性値から粘性値を引き算した値とします。
よって、正であれば弾性体(固体)より、負であれば粘性体(液体)よりというように
物体の状態を示すことになります。

以上のように置き換えてみた図から、物体A君とB君を比べた場合、
  ・A君は弾性体よりでやわらかい
  ・B君は粘性体よりでかたい
という見かたになります。

では次に、以下の表を用いて、粘弾性の測定に置き換えて説明をしたいと思います。

ここでは、国語の点数を弾性率、数学の点数を粘性率に変えており、合計であった
粘弾性値はこの先、複素弾性率と呼ぶようにします。


複素弾性率は、傾向は合計点と同じであるものの、値そのものは変わってしまって
いますね。

ではまた図を用いて説明したいと思います。


この図は、横軸に弾性(国語)、縦軸に粘性(数学)をとり、複素弾性率(合計)は
原点からのベクトルの長さで見ます。

上図から、複素弾性率は三平方の定理
    複素弾性率 = √(x^2 + y^2)
から求まるため、単純に弾性と粘性を足し合わせた値にはならなかったのです。

幾何学的には以上のように求まりますが、複素弾性率の「複素」は、複素数の「複素」
ですので、複素弾性率は、
    複素弾性率 = x + iy
として、虚数を用い一つの数字であらわされます。


いかがでしょうか。


最後の方で複素数、虚数、といったキナ臭いものが登場しました。
実際、このあたりも、粘弾性を難しいものだと印象づけている感は否めません。

しかし、粘弾性を測定するときは、虚数だから、とか、複素数だから、とか、いちいち
そんなことは考えないので、心配はまったくいりません。
単に物体のかたさを、横成分、縦成分として2成分わけしているだけです。

それでも頭がゴチャゴチャするという方も見受けられます。

でも、冷静に考えれば、たかだか2次元的にデータを見ているにすぎません。
実験データの分析手法でも、はやりの人工知能でも、もっともっと多次元のデータ解析
は、実は身近にあります。

過度に難しいと感じるのは「錯覚」だと思います。


とは言っても、成分分けすることがどのように役立つのか、実例などがないとイメージ
はつかないと思いますし、粘性と弾性、それぞれの定義も少しだけ掘り下げる必要が
あると思います。

それはまたの機会にしたいと思います。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。