2021年6月5日土曜日

【実測シリーズ】Surfgauge 試作室_ハンディな ポータブル レオメータの提案


いい加減、コロナ禍の閉塞感を感じている方も、いらっしゃるのではないかと
思いますが、いかがお過ごしでしょうか。


現在、今回のタイトルにある、ハンディタイプのレオメータを開発中です。

概ね、システムは仕上がってきたため、実機の動作確認も兼ねて、アプリケーション
として考えられる対象物を、測定してみる、ということを行っています。


少し近い物性の測定器では、粘度計や、硬度計。
これらは、ハンディでポータブルなタイプの測定器が上市されています。

しかし、これまで、手持ちサイズで、動的粘弾性の測定が可能な装置は、まったく普及
されていないように見受けられます。

どのようなところにニーズがあるかは、他のポータブル測定器と同じであるかと
思いますが、一般的には、例えば、

・サンプルが切り出せない(大きい、ラボの外部・遠方にある など)
・現象を測定器上で再現するのではなく、現場で起きている、そのままの現象を
 測定したい
・経時変化が著しく、その場で、すぐに測定する必要がある
・品管などで、汎用的に使いたい

などでしょうか。

とりわけ、動的粘弾性の測定に関していえば、例えば、

塗料や接着剤の硬化過程を、塗布面から直接測定したい。

とか、
食品関係では、食感と粘弾性に、深い関連性がある、米、もち、かまぼこ、ゼリー
などを、調理・加工後、すぐに測定したい場合、

また、
ドウ(パンの生地)のように、練ってから、測定するまでに過発酵してしまい、
すると、テクスチャが変わってしまうため、時間が命だったりする食材など。

その他、
肌、筋肉など、人体を構成する部位の測定。

他にも、色々とニーズはあるかと思います。


ここで、装置を紹介したいと思いますが、
装置のサイズ感、外観は、以下のようなものになります。


装置下面を、任意のサンプル表面に接触させて、測定を行います。

下面には、縦方向に正弦周期的にひずみを与える測定子が備えられており、変形を
与えると同時に、周期的に変化する荷重値を測定します。

変位と荷重の正弦波が得られると、粘弾性の解析が可能になりますが、よろしければ、
概要は、過去の投稿、
をご参照いただければと思います。

なお、測定子については、
形状は、ピン状のもの、球面状のもの、平面状のものなど、
また、これらのサイズを細い・太い、小さい・大きい 
を用意しており、測定対象の性質や、かたさなどから、適切なものを選択できる
ようにしています。


ここからは、測定例の一部を紹介したいと思います。

以下は、接着剤の測定例です。
○・・・貯蔵弾性成分(E')
●・・・損失弾性成分(E")
×・・・位相差(δ)[°]

横軸は、時間[分] です。
右縦軸は、位相差[°] です。
E', E"については、現状、まだ単位はついていませんが、弾性率に比例した値です。
対数軸となっている、縦軸のスケールをご参照ください。

測定開始から、10分てまえのところで、E' = E" (δ = 45°) を示し、液体から
固体への遷移を迎えています。
このように、貯蔵・損失に成分分けすることで、硬化判定の一つの定義を、与えて
くれます。


次は、水溶性塗料の測定例です。
グラフのみかたは、上記、接着剤の例と同じです。

水溶性のためか、接着剤にくらべ、硬化に時間がかかっていることがわかります。

また、硬化前のところでは、データが大きく「ガタ」ついているのがわかるかと
思いますが、硬化前の塗料が、かなりゆるいため、荷重センシングに限界がある
ためかと思います。

これを解決するためには、測定子の面積を大きいものにするということが考えら
れますが、塗料との接触面積を大きくすると、溶媒が揮発しにくくなり、実際の
硬化速度と、かけ離れたデータになってしまう可能性があります。

これには、ナイフエッジ型の測定子を用い、包丁のようにつきたてて測定をする
という方法がかんがえられます。


ありそうで、なかった、できそうで、できなかった。

ハンディ型のレオメータについては、多くのニーズがあるのではないかと考えてます
が、間もなく、ラインナップに加わります。

こんなことで困っている。
こんなものを測定してみたい。

など、お問い合わせいただければ幸いです。


ここまで、読んでいただきありがとうございました。


2021年4月17日土曜日

閑話休題 -SDGs-


久々の投稿となりましたが、今回、これまでのテーマからはかなり変わり、

SDGsに関連した内容を投稿しようと思いました。


SDGsとは、「持続可能な開発目標」のことで2030年までに、持続可能で

よりよい世界を目指す国際目標として設定されているそうです。

17のゴール・169のターゲットから構成されているようですが、開発の内容として、

該当、適応をする範囲はある程度、解釈などにより幅広いように思います。


先進国を中心としたフードロスと、途上国を中心とした、飢餓人口の増加。

肉食と環境問題。

これらを解決する技術開発の一つとして注目されている、植物性代替肉について、

取り上げたいと思います。


フードロスは、

食品の生産、加工、廃棄時の、

・エネルギーの浪費による気候変動

・化学物質の排出

などを引き起こしていると指摘されています。


肉食と、そのための畜産は、

・温室効果ガス排出の約15%

・地球上の不凍地の約1/4が家畜放牧に使用

・地球上の全耕作地の1/3が家畜用飼料生産に使用

・肥料、淡水、土壌の無駄遣い

・動物愛護

・健康被害(虚血性心疾患、脳卒中、ガン)

などの問題の原因になっていると指摘されています。


2050年までに地球上の人口は、100億人ごえの見通しで、

・ 食肉の供給は、現在の70%増が必要

・ともない、温室効果ガスは約92%増

との予想もあります。 


植物中心の食事にかえていくことで、気候変動や健康被害リスクを回避する

という動きがあり、代替肉への期待が高まっています。


代替肉への期待に対して、

1)植物性たんぱく質の利用

2)培養肉

これらの技術開発が競い合っているようです。


ただし、培養肉は、

・そもそも、動物性原料である、ウシ胎児の血清が必要

・製造難易度が高い

・筋肉細胞を成長させるため、脂肪成分がない

・製造時に高いエネルギーが要される

・温室効果ガス削減は7%程度にしかならない(対牛肉)

など、課題が多いようです。


 一方で、植物性代替肉は、上記の培養肉の課題に対しても優位で、

加熱溶融混錬方式という、食品加工でも、もともと使用されている製法を応用でき、

フィレットタイプや、ミンチタイプなど、種々の加工にも容易に対応できる点でも

優位性があるようです。


大豆を原料とした植物性代替肉は、一部、ハンバーガーファストフード店やスーパ-

などでも、ソイミートという名称などで販売されています。


すでに試された方の中には、大豆のにおい、歯ごたえ、などで、まだまだ肉には

とどかない、という感想を持たれた方もいるのではないかと思います。

このあたりが、植物性代替肉の主な課題といえそうです。

 

植物性代替肉は、たんぱく質が豊富な穀物(主に大豆)の粉末と水を、主なベース

原料とし、 これを、加熱溶融混錬方式の加熱、混錬、圧縮を要素とし、水素結合により、

組織化したたんぱく質が肉のような質感を生んでいるそうです。


混錬とは、よく練り、混ぜ合わせることですが、せん断により、機械的エネルギーを、

効果的に原料に与えるような設計になっているようです。


せん断といえば、これまで、当ブログで紹介をしてきた、レオロジーで非常になじみ

ですし、

「せん断ひずみ」については、よろしければ、

粘弾性について7)_伸長粘度はなぜ3倍? ~その1~_せん断ひずみと伸長ひずみ

を、ご参考いただければと思います。


表面張力といえば、分子間力相互作用ですので、やはり、植物性代替肉の製法は、

我々には非常になじみのある分野が関連しているように思いました。


SDGs的には、混錬時の加熱に要されるエネルギーの浪費は避けたいところで、熱の

かわりに他のエネルギー要素を、より効率的に与える方法と、分子間相互作用を、より

促進させるような方法でおぎなう。


思いたったら、手を動かすと、

いきなりですが、混錬の装置について考え、検証用に簡単な装置で、ミンチ状の代替肉を

イメージし、作ってみました。


以下が、大豆粉と水(+とある食品添加剤)でつくった代替肉(もどき)です。


右が、混錬加工直後のものです。太さは5mm程度です。

左が、一昼夜、水につけておいた後のものです。


単に、粉を水で混ぜて固めただけだと、水にいれて間もなく、崩れてしまいますが、

若干膨潤してはいるものの、形状が保持されていることがわかると思います。

たんぱく質が組織化しているためと思われます。

触ってみると、弾力があります。


このサンプルは、実は、ほぼ加熱無しで混錬したものです。

多少粉っぽい個所も残されてますが、初の取り組みとしては、とりあえず、まずまず

のような気がします。

想定が正しい方向であったのではないかと、装置の改善、追加工などで、試してみたい

ことがいくつか出てきました。

人体を考えると、体温くらいの温度でも、十分に組織化させられるのではないか、とか、

その温度くらいまでは加熱しても良いかな、とか、そんな想像もふくらみます。



SDGsについては、原因と結果の因果関係が不明確な開発課題があることが指摘されて

いたり、パワーゲームの要素や、出来レース的なみかたもあったりと、このような

取り組みの問題点として、わからなくもないとは思います。


ただ、ファッション業界では、流行色が実はあらかじめ決められているように、企業や

経済活動的には、暗中模索でギャンブル的になってしまうよりは、開発の指針が明確に

されていることは、正直ありがたい、と思うのは事実かと思います。


時に、テーマを与えられることで、今回の投稿のように、ワクワクしたり、楽しく

なってくるようなこともあるように思います。



ここまで読んでいただきありがとうございました。


2021年1月18日月曜日

【実測シリーズ】Surfgauge 試作室_コロナ自粛期間中 速報的 流体解析の提案

 
2021年、初の投稿です。
というより、前回の投稿よりかなりご無沙汰になっておりました。

昨年、今では懐かしくもある、2020年の5月の自粛期間時いらい、コロナは、依然、
終息、収束を見せる気配がありません。

当時、こんな時こそ、「いつかやろう」、「ダメもとでやってみたかったこと」
など、最低の成果でもプラスマイナスゼロ、最悪でも会社やご自身に、損害を与え
ない結果にしかならないようなことをやってみるのはいかがかと、ブログにも投稿
しました。


今回、流体の流動解析を目的とした測定装置を考え、試作装置で測定した実例を
投稿したいと思います。


流体の解析に重要な物性として、粘度、表面張力、密度などがあり、
例えばよく聞くところでは、

レイノルズ数:
ρ: 密度
v: 平均速度
L: 特性長さ
µ: 粘度
ν: 動粘度

せん断粘度(µ) を用いることで、慣性力と、粘性力の比であるとして、わかりやすい
かと思います。

流動において、粘性力は、層流という整った流れを作る源泉であり、
慣性力は、より重たいものが速度づくと、乱流を作る源泉となる、
とみることができます。


ウェーバー数:
ρ: 密度
L: 特性長さ
V平均速度
σ: 表面張力


分子は、レイノルズ数と同じく、慣性力をあらわし、分母の表面張力との比をとり
ます。

スプレーやインクジェットのような高速の噴出、または、高速で液体がぶつかった
時の「しぶき」。
このような現象では、凝集力として作用する表面張力は、球形状の液滴を作り、
慣性力に支配されると、複雑な非球形状になります。


オーネソージ(オーネゾルゲ)数:

レイノルズ数と、ウェーバー数を組み合わせた無次元数です。
粘性力と、表面張力の関係性をあらわします。

例えば、噴出時に、引き延ばされた液滴のフィラメントの破断しやすさを特徴づける
など、自由表面を形成する流動場、液滴の形成において、使われるようです。


これら以外にも、流体力学解析に有効な無次元数は、多数ありますが、それらを
紹介することが目的ではありません。

ここで着目したいのは、代入する、粘度、表面張力の測定についてです。


解析対象となる流動現象で、流体の速度を見積もることができれば、少なくとも
上記で紹介した手法に当てはめ、解析することは可能です。


問題は、

液体のほとんどは非ニュートン流体であり、粘度値が、速度依存性を持つ。

表面張力についても、界面活性剤を混合した系では、動的表面張力として、表面張力は、活性剤の吸着速度に依存性を持つ。
この点は、【実測シリーズ】コロナ自粛期間中 液膜粘弾性の測定 の「マランゴニ効果」を、ご一読
いただければと思います。


粘度については、現場の流動速度から、どうにか、せん断速度を算出し、その
せん断速度での粘度値を得ることは、可能かも知れません。

一方で、動的表面張力の測定は、最大泡圧(バブルプレッシャー)法という、液中に
入れた細いノズルから、泡をポコポコと吐出し、吐出圧力から表面張力を算出する
方式が主流です。
この泡の吐出周期(速度)を変化させ、最大泡圧法固有の速度と、表面張力値を
対比づけしています。

この泡の吐出周波数と、せん断速度、現場の流動速度を、どのように換算するのか。
そうでなくとも、個別に測定した物性値の、速度・時間軸を合わせこむこと自体、
後にエラーがふくらんでいく要因になりそうです。


そこで、以下に、同一システム、同一の環境で、粘度と表面張力を同時測定した
一例を紹介します。
(測定システムの詳細については、割愛します)

以下、すべてのグラフで、
黒マル: インクジェット用 黒インク
黄マル: インクジェット用 黄インク
青マル: 水
・横軸 : 測定時に発生させる流動場の流速[m/sec.]
     (せん断速度に換算することも可能)


図1.粘度値[mPa・s]

黄が黒よりも多少高く、両インクともに、若干の非ニュートン性を示してます。


図2.表面張力[mN/m]


インクについては、黒の速度依存性が若干大きく、両インクとも、流動が高速である
ほど、表面張力が上昇傾向にあり、水と異なり、動的挙動を示してます。

上記、粘度、表面張力の測定結果から、無次元数を求めてみたのが、以下になります。


図4.レイノルズ数


図4.ウェーバー数


図5.オーネソージ数



いかがでしょうか。
測定・解析結果についての検討はしませんが、流速によって、流動特性が変わることが
わかります。

今回紹介した測定方式が実現することにより、

同一測定環境(時間・速度軸)で得られた物性から、流動性解析が可能

それ以外にも、

・一度の測定で、2つの物性値が得られ、測定の手間が省ける
・静的(低速)から、動的(高速)の測定が可能

といった特長があげられます。



ここまで読んでいただき、ありがとうございました。