2019年9月3日火曜日

粘弾性について5)_緩和について


先月、レオロジー講座の講師を務めさせていただく機会がありました。
長時間の講座であったため、その資料作成に追われていたり、新商品の準備に
追われているうちに、前回の投稿から、しばらく時間があいてしまいました。


前回の投稿、粘弾性について4)_万物は流転する では、レオロジーにおいては、
すべての物体は、流体であり、流動速度がはやいか、おそいか、の違いだけである。

極論的にはこのように説明をしましたが、流体か固体かを判断するときの指標となる
数に、デボラ数というものがあります。

       デボラ数 = 緩和時間 / 観察時間

今回は、「緩和」とはなにか、について説明をします。


緩和現象の観察には2つの方法があります。



一つは、上図の左の例のように、例えば物体に、一定の荷重または力を与えて、
その変形量の変化を観察する方法です。

もう一つは、上図の右の例のように、一定の変形を与えたときの力の抜け具合を
観察する方法です。

左の例を、「クリープ試験」といい、
右の例を、「応力緩和試験」といいます。


クリープ試験では、試験開始時においては、変形が生じない程度の荷重、または
力であること。

応力緩和試験では、試験開始時においては、力を開放した時、変形した物体がバネ
のように、もとの形状に回復する程度の変形であること。

これらが試験条件になります。

いずれの方法においても、時間の経過とともに、例えば樹脂であれば、絡み合った
高分子が緩やかにほどけ、金属であれば、金属イオンにずれが生じるため、与えた
荷重や変形に応じた形状に、徐々に「ならされていく」ことになります。

この挙動が緩和であり、高分子がほどけたり、金属イオンがずれることは流動と
言いかえられます。



ここからは、緩和時間について説明したいと思います。
緩和時間とは、制御系では時定数と呼ばれ、クリープ試験における遅延時間と同義
です。

起点とするある時点での状態が、約37%にまで状態が減衰するのにかかった時間
です。

この37%というのは、

       ネイピア数(e) ≈ 2.7 の逆数、約0.37

から来ています。


応力緩和試験における、応力の減衰曲線を下図に示します。


例えば指で、ある物体に一定の変形を与えたとき、与えている力は上図のような
曲線に従って抜けていきます。

このグラフの中で、応力が37%に減衰した区間、どこを切り取っても、同じ時間の
長さ(緩和時間)を示します。
放射能の半減期と同じような見方ですね。


次にクリープ試験における、ひずみ(変形)曲線を示します。


変形と力は表裏一体です。
力ではなく、変形量を観察するクリープ試験では、

       1-0.37 = 0.63

であり、ある基準とする変形状態の、約63%の変形量に達するまでにかかった時間
をしらべます。
この時間を遅延時間と呼びますが、緩和時間と同義です。

応力緩和試験同様、63%に達する時間領域、どこを切り取っても、同じ時間の長さ
を示します。



これで、前述のデボラ数の式、緩和時間がわかりました。

一方で、観察時間は、観察者、つまり、作業者や設計者が定めなくてはなりません。

また、デボラ数、いくつ以上を固体として扱うか、いくつ以下を流体として扱うか
についても、観察者が定めなくてはいけません。

観察時間は、例えば工業的には、商品の耐久年数、製造においては、ある加工や流動
を材料に与えるときの速度や、次の工程に進めるまでの時間などでしょうか。



動的粘弾性の測定は、粘弾性変化の、時間との関係性を調べることが目的であり、
この時間というのが、緩和時間のことにほかなりません。

緩和のイメージをつかんでいただければ、幸いです。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


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