2020年5月15日金曜日

【実測シリーズ】Surfgauge 試作室_コロナ自粛期間中 速報的 液膜粘弾性の測定


前回の投稿から、だいぶん間があいてしまいました。

昨今のコロナ自粛期間中、いかがお過ごしでしょうか。


世の中、今回を機に、コロナ終了後も、在宅ワークの流れは促進されていくのかも
しれませんが、業務や時間効率が上がるのであれば、どんどんそのようになっていけば
良いのかなと思います。

私どもは、もともと在宅ワークの方式をとっていますが、特に不便を感じたことは
ありません。

ただ、今回のような自粛、緊急事態宣言下で、テンポラリーに在宅ワークを行っている
方は、お客様や、パートナーなどが稼働していなければ、やることもなくなってきて
しまうのではないかと想像します。

このような時は、「いつかやろう」、「ダメもとでやってみたかったこと」など、
最低の成果でもプラスマイナスゼロ、最悪でも会社やご自身に、損害を与えない結果
にしかならないようなことをやってみるのはいかがかと思いました。

申しました通り、もともと在宅ワークということもあり、ここまでの間、取り立てて
仕事のペースが変わることはなかったのですが、自粛の気分を変えたいと思い、
「いつかやろう」と考えていたこととして、液膜粘弾性測定装置の試作にトライして
みました。



前置きが長くなりましたが、今回のタイトルに戻りたいと思います。


当ブログでは、これまで、「粘弾性」に関係する内容がほとんどでした。

粘弾性については、主に、概念的なお話をさせていただきました。

粘弾性測定の実測については、本来は粘弾性の測定原理まで到達した後で投稿する、
という中期計画でした。

  ブログをかなりサボってしまっていたこと。
  「自粛の気分転換」。

これらはさることながら、
「液膜粘弾性の実測」については、なかなか目にすることはないはず、と思い、
今回、あげさせていただくことにしました。


いきなり測定データを示します。


白抜きのドットが貯蔵(バネ弾性)成分。
黒塗りのドットが損失(粘性)成分です。

バネ弾性、粘性成分については、よろしければ、こちらをどうぞ。
粘弾性について1)_学校の定期試験を例にとった説明
粘弾性について2)_固体はかたい、液体はやわらかい?

横軸は、周波数で、対数軸になっています。

食器用洗剤水溶液(確実にミセル濃度以上、正確な濃度は不明)の液(シャボン)膜
を作り、その膜をある方法で、ひっぱったり、縮めたりという動作を「正弦周期的」
に繰り返しました。

その際、膜の長さと、力の変化を、それぞれ正弦波のデータとして記録します。

変形の大きさと、力の関係から、弾性率が得られることを、
粘弾性について6)_伸長粘度はなぜ3倍? ~その1~_せん断ひずみと伸長ひずみ
で説明をいたしました。

これらの関係を正弦波で得ると、かたさである弾性率を、貯蔵成分と損失成分に分ける
ことができます。

この粘弾性の測定原理については、いずれの機会に投稿したいと思います。


往復運動の速度を上げていくと、特に貯蔵(バネ弾性)成分の顕著な上昇がみられます。


ミセル濃度を超える液膜には、洗剤に含まれる界面活性剤分子が、密に吸着し配向
しています。

界面活性剤の吸着密度に応じ、表面張力は低下します。

一方で、液膜を引き延ばし、表面積が増加すると、密であった界面活性剤が瞬間的
には「疎」の状態になりますので、液膜の表面では、界面活性剤濃度が低くなり、
瞬間的に表面張力は上昇します。
これは「ギブス弾性力」で説明されます。

液膜を引っ張ると、表面積を最小にして安定化をはかろうとする表面張力の作用に
より、縮まろうとしますので、表面張力はバネ弾性のように働きます。

以下、ウィキペディアで紹介されている動画を見ていただくと、イメージがよくつかめます。
https://en.wikipedia.org/wiki/Surface_tension

いっぽうで、「疎」になった隙間には、すぐに界面活性剤が移動してきて、密の状態
になるため、表面張力を低下させます。
このメカニズムを「マランゴニ効果」とよびます。

高周波数領域では、液膜の表面積の増加に、界面活性剤の移動がおいつかないため、
弾性率が上昇し、
周波数が低い領域では、界面活性剤の移動がじゅうぶんにおいつくため、弾性率は
上昇することなく、安定していると、グラフからは理解できそうです。

低周波数領域では、弾性成分が粘性成分を上回り、並行で平坦なグラフになって
いますが、配向した界面活性剤が、構造として液膜の安定に寄与しているのでは
ないかと想像します。


いかがでしょうか。


今回、試験を行ってみて、例えば、

  起泡性、泡安定性、フォーミング、テクスチャーなどを検討する際の、液膜物性
  の評価。
  目的に合わせた材料設計時の、界面活性剤の選定。

などに、実用性のある測定方法になるのではないかと思いました。

試作機をブラッシュアップしながら、色々な液体を試してみたいというように思い
ました。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


2019年9月15日日曜日

粘弾性について8)_伸長粘度はなぜ3倍? ~その2~_伸長ひずみを掘り下げる


前回は、ひずみの形態として、せん断ひずみと、伸長ひずみの定義について解説を
しました。

今回は、伸長ひずみについて、さらに掘り下げてみたいと思います。


まず、伸長ひずみの仲間を紹介したいと思います。
前回のブログでは、一軸延伸による伸長ひずみを説明しました。


この図から、なにかお気づきになりませんでしょうか。

伸長ひずみでは、引っ張ったり、縮めたりという「主軸」の変化に連動し、他の
軸も、伸びる、または、縮むといった変化が起きています。

ひずみが大きくなっても、物体の体積は一定ですから、どこかが伸びたら、どこかが
縮む、当然といえば当然ですね。
このことは、伸長ひずみを理解するうえで、大変重要なポイントになります。

例えば、下図のような物体に、一軸延伸による伸長ひずみを与えます。


体積が一定のとき、引っ張り長さ(L)の変化に対する、幅(D)は以下のように変化
します。
体積は、L × D^2 で、どこまで伸ばしても一定のはずです。
幅は、二乗で効いたDを、平方根で割り戻すことになるので、Lが大きくなるほど
変化が小さくなります。


伸長ひずみの計算のおさらいと、「ポアソン比」について説明します。


ここで、前回のブログのとおり、伸長ひずみ量は、(l - l0) / l0 でしたね。
伸長ひずみ量のシンボルを、ε とします。

幅方向のひずみ量も、同じように、(D - D0) / D0 で求めることにします。
幅方向の圧縮ひずみ量のシンボルを、ε' とします。

上記、引っ張り長さと、幅の関係を示したグラフを、ε'と、ε に置き換えたのが、
下図です。
なお、ε' は、収縮によって生じるひずみのため、マイナスの値をとりますが、
符号は気にする必要はなく、絶対値であつかえば良いです。


ひずみ量が小さい領域では、グラフは、ほぼ正比例であり、ε' は、ε の、ほぼ0.5倍
であることがわかります。

ε' / ε でとった比を、「ポアソン比」といいます。

・変形時に体積変化が伴わず、
・小ひずみ量 領域においては、
ポアソン比 = 0.5 であるとして、

       ε' = 0.5ε
       ε  = 2ε'

で、お互いに換算できるということになります。
幅方向のひずみ量から、延伸方向の伸長ひずみ量に換算できる、ということは、
伸長ひずみによる粘度や弾性率を測定するときに、実は、不可欠です。



今回、伸長ひずみのメカニズムの、第一歩に踏み込みました。

とりあえずは、物体に、変形、ひずみを与えたとき、断面積が変化する変形は、
伸長ひずみであると理解をしておいて、差し支えないと思います。

せん断ひずみは、変形の大きさに伴い、断面積(厚みや幅)の変化は、発生して
いないことが、前回の、せん断ひずみの図からも、わかると思います。

この差は、粘度測定により、物質の評価を行う際、大きな差を生みます。

このことは、まずは、「伸長粘度は、せん断粘度の3倍」であるところまで、たどり
着いてから、取り上げたいと思います。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


2019年9月14日土曜日

粘弾性について7)_伸長粘度はなぜ3倍? ~その1~_せん断ひずみと伸長ひずみ


これまでの、「粘弾性について」シリーズでは、肩ならし? ウォーミングアップ ?
のため、少し定性的な方向で話をしてまいりました。

この先、少しずつ、科学的な定義にも触れながら、話をしてまいりたいと思います。

そのようにしないと、話が進んでいくにつれ、逆に説明が難しくなることもあるため
です。


今回は、「ひずみ」について取り上げたいと思います。

シリーズ化したサブタイトル、「伸長粘度はなぜ3倍?」を終着点にするための
第一歩として、取り上げようと思いました。


粘弾性について3)_粘度と弾性率の定義のなかで述べられている、

       粘性係数 = 力 / 速度
       弾性係数 = 力 / 変形の大きさ

について、
  ・「速度」とは、ひずみの大きさが変化する速度
  ・「変形の大きさ」とは、ひずみの大きさ
を意味します。

では、「ひずみ」とはなにか、定義について説明します。


ひずみにはいくつかの種類がありますが、このシリーズでは、「せん断(ずり)」
ひずみと、「伸長」ひずみの2つについて説明します。

いずれにしても、ひずみとは、物体の変形の大きさを比で表したものです。


まず、せん断ひずみについて説明します。




せん断ひずみとは、上図のような立方体要素を、トランプをずらすかのように、
上面と底面をたがいちがいにスライドさせる変形です。

力Fをあたえ、Δxのずれを与えたとき、
Δxと、物体の厚みΔyの比、Δx/Δy (=tanΘ) がひずみの大きさ、ひずみ量です。

Δxも、Δyも長さ単位を持ちますので、ひずみ量は無次元単位になります。
なお、100を乗じて%であらわす場合もありますので、単位を確認するようにして
ください。

なお、ずらすのにかけた力Fを、面積Aで割り算したものがせん断応力です。

応力の単位は、
       Pa(パスカル) = F[N(ニュートン)] / 面積[m^2]

前述の通り、
       弾性係数 = 力 / 変形の大きさ

ですので、
       弾性率[Pa] = せん断応力[Pa] / ひずみ量[-]

になります。

なお、せん断ひずみにより測定する弾性率、「ずり弾性率」のシンボルは、「G」が
用いられることが多いです。

次に、このひずみ量を時間(秒)で割り算すると速度になり、これを、せん断速度
と呼び、秒あたりに発生したひずみの大きさになります。

       せん断速度[1/s] = ひずみ量[-] / 時間[sec.]

せん断速度の単位は、1/s であり、粘度測定をされている方は、インバースセック
(秒の逆数)という言葉を使ったり、聞いたりするのではないでしょうか。

前述の通り、
       粘性係数 = 力 / 速度

ですので、
粘度[Pa・s] = せん断応力[Pa] / せん断速度[1/s]

になります。


次に伸長ひずみについて説明します。



伸長ひずみとは、上図のような立方体要素を、直方体に延伸させる変形です。

力Fをあたえ、Δlの延伸を起こしたとき、Δlと、物体の元のながさl0の比、Δl/l0 が
ひずみの大きさ、ひずみ量です。

Δlも、l0も長さ単位を持ちますので、ひずみ量は無次元単位になります。
せん断ひずみ同様、100を乗じて%であらわす場合もあります。

なお、延伸するためにあたえた力Fを、面積Aで割り算したものが引張応力です。
以下は、せん断ひずみの時と同じですが、復習もかねて解説します。

応力の単位は、
       Pa(パスカル) = F[N(ニュートン)] / 面積[m^2]

前述の通り、
       弾性係数 = 力 / 変形の大きさ

ですので、
       弾性率[Pa] = 引張応力[Pa] / ひずみ量[-]

になります。

なお、伸長ひずみにより測定する弾性率は、ヤング率という呼ばれ方で、聞き覚えの
ある方も多いかもしれません。

「伸長弾性率(ヤング率)」のシンボルは「E」が用いられることが多いです。

せん断ひずみ同様、このひずみ量を時間(秒)で割り算すると速度になり、これを、
伸長ひずみ速度と呼び、秒あたりに発生したひずみの大きさになります。

       伸長ひずみ速度[1/s] = ひずみ量[-] / 時間[sec.]

よって、伸長粘度は、
       粘度[Pa・s] = 引張応力[Pa] / 伸長ひずみ速度[1/s]

になります。



流体用の回転粘度計は、せん断ひずみによる測定が主流です。
引張試験機では、呼び名のとおり、伸長ひずみによる測定です。

しかし、変形は、これらの変形形態が複合的に発生します。

サブタイトルにもなっている、伸長粘度はせん断粘度の3倍、を理解するためには
せん断ひずみと、伸長ひずみが、それぞれ、相互的に関係していることを理解する
必要があります。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

伸長粘度はなぜ3倍? にたどり着くまで、一歩一歩進んでいきたいと思います。


2019年9月3日火曜日

【実測シリーズ】緩和時間の測定


過去の投稿で、「緩和」について説明をいたしました。

粘弾性について4)_万物は流転する
粘弾性について5)_緩和について


今回は、緩和曲線を得るための簡単な試験機を作成し、緩和時間を測定してみた結果
をシェアさせていただきたいと思います。


試験機の概要を示します。




測定の手順は、以下の通りです。
なお、サンプルにはシリパテを用いました。

1.サンプルを一気に押し込む
2.荷重値がゼロになるまで計測
3.荷重値が37%に減衰する区間の時間(緩和時間)を確認
4.応力緩和の式(粘弾性について5)_緩和について)に代入しフィッティング
  曲線を得る


以下に、結果を示します。




ドットでプロットされているのが、生の測定データです。
実線がフィッティング曲線です。

測定の後半、低荷重域で生データとフィッティング曲線のずれが大きくなっています
が(低荷重測定の感度の問題、測定開始直後との接触面積の違いなど、いくつか要因
が思いつきます)、概ねよくフィッティングしていると思います。

また、測定開始直後は、値がすべて4000程度を示していますが、センサの測定範囲
を超えているため、飽和してしまっています。

これらのように、実際の測定においても、例えば、センサの感度、時間分解能といった
装置要因による制約で、測定したいところが測定できない、ということは起き得ます。

また、きわめて長時間かけて緩和する物体も多々あるため、測定が長時間におよんで
しまうこともあります。

しかし、このように、ある区間の計測をすることで、短時間、長時間の緩和挙動を
予測することができます。



また、ステージ温度を3水準振って実験を行いましたが、結果からは、温度が高い
ほど、応力曲線の減衰がはやいことがわかると思います。

以下に、緩和時間と測定温度の関係を示します。




例えば樹脂の成形加工などのように、温度と緩和時間の関係を知ることは大変重要
ですが、緩和に長時間かかる場合、このように温度をあげて測定することで、測定
時間の短縮も可能です。

このように、温度と時間には一定の関係性があり、これを「温度-時間換算則」と
いい、レオロジーでは重要な概念の一つです。



いかがでしょうか。

緩和時間には、自然対数(ネイピア数)が出てきたり、応力緩和のモデル式には、
指数関数が含まれていることから、苦手意識をもつ方もいるかもしれません。

しかし、モデルそのものは決して難しいものではない、と思っていただくきっかけに
なれば幸いです。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


粘弾性について5)_緩和について


先月、レオロジー講座の講師を務めさせていただく機会がありました。
長時間の講座であったため、その資料作成に追われていたり、新商品の準備に
追われているうちに、前回の投稿から、しばらく時間があいてしまいました。


前回の投稿、粘弾性について4)_万物は流転する では、レオロジーにおいては、
すべての物体は、流体であり、流動速度がはやいか、おそいか、の違いだけである。

極論的にはこのように説明をしましたが、流体か固体かを判断するときの指標となる
数に、デボラ数というものがあります。

       デボラ数 = 緩和時間 / 観察時間

今回は、「緩和」とはなにか、について説明をします。


緩和現象の観察には2つの方法があります。



一つは、上図の左の例のように、例えば物体に、一定の荷重または力を与えて、
その変形量の変化を観察する方法です。

もう一つは、上図の右の例のように、一定の変形を与えたときの力の抜け具合を
観察する方法です。

左の例を、「クリープ試験」といい、
右の例を、「応力緩和試験」といいます。


クリープ試験では、試験開始時においては、変形が生じない程度の荷重、または
力であること。

応力緩和試験では、試験開始時においては、力を開放した時、変形した物体がバネ
のように、もとの形状に回復する程度の変形であること。

これらが試験条件になります。

いずれの方法においても、時間の経過とともに、例えば樹脂であれば、絡み合った
高分子が緩やかにほどけ、金属であれば、金属イオンにずれが生じるため、与えた
荷重や変形に応じた形状に、徐々に「ならされていく」ことになります。

この挙動が緩和であり、高分子がほどけたり、金属イオンがずれることは流動と
言いかえられます。



ここからは、緩和時間について説明したいと思います。
緩和時間とは、制御系では時定数と呼ばれ、クリープ試験における遅延時間と同義
です。

起点とするある時点での状態が、約37%にまで状態が減衰するのにかかった時間
です。

この37%というのは、

       ネイピア数(e) ≈ 2.7 の逆数、約0.37

から来ています。


応力緩和試験における、応力の減衰曲線を下図に示します。


例えば指で、ある物体に一定の変形を与えたとき、与えている力は上図のような
曲線に従って抜けていきます。

このグラフの中で、応力が37%に減衰した区間、どこを切り取っても、同じ時間の
長さ(緩和時間)を示します。
放射能の半減期と同じような見方ですね。


次にクリープ試験における、ひずみ(変形)曲線を示します。


変形と力は表裏一体です。
力ではなく、変形量を観察するクリープ試験では、

       1-0.37 = 0.63

であり、ある基準とする変形状態の、約63%の変形量に達するまでにかかった時間
をしらべます。
この時間を遅延時間と呼びますが、緩和時間と同義です。

応力緩和試験同様、63%に達する時間領域、どこを切り取っても、同じ時間の長さ
を示します。



これで、前述のデボラ数の式、緩和時間がわかりました。

一方で、観察時間は、観察者、つまり、作業者や設計者が定めなくてはなりません。

また、デボラ数、いくつ以上を固体として扱うか、いくつ以下を流体として扱うか
についても、観察者が定めなくてはいけません。

観察時間は、例えば工業的には、商品の耐久年数、製造においては、ある加工や流動
を材料に与えるときの速度や、次の工程に進めるまでの時間などでしょうか。



動的粘弾性の測定は、粘弾性変化の、時間との関係性を調べることが目的であり、
この時間というのが、緩和時間のことにほかなりません。

緩和のイメージをつかんでいただければ、幸いです。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


2019年5月15日水曜日

【実測シリーズ】撹拌型 粘性評価器 SVE-1 を用いた「とろみ剤」の測定


前回の投稿以来、少し時間があいてしまいました。

今回は、攪拌型粘性評価器SVE-1を使って、とろみ剤水溶液の粘性を評価してみた
内容を、「実測シリーズ」として取り上げたいと思います。


SVE-1は、センサを内蔵した専用の測定スティックを用いて測定者の攪拌動作から流動
抵抗を検出し、回転数に応じた流動抵抗値や近似粘度を求めることができます。

装置の紹介ページはこちら


とろみ剤は、ジュースやスープなどに溶かし入れ、とろみをつけて飲みこみを容易にし、
誤嚥を防ぐ目的で用いられます。

とろみ剤は、カンキツ類やリンゴなどを原料としたペクチン、マメ科の植物から抽出
したグァーガム、微生物が生成するキサンタンガムを主原料としたものなど、
さまざまな種類があります。
多くは、粉末状の食品添加物として販売されています。


誤嚥によりひきおこされる肺炎は、高齢者の死亡原因としてかなり上位に位置します。
とろみ剤は、高齢化社会の現在、市場で注目されています。

嚥下補助食分野では、液体のとろみの強さは、3段階に分類されており(表1)、
とろみ度合の大きさを粘度で規定しています。
各とろみ剤メーカは、この粘度値をもとにとろみ剤の分量(目安)を定めています。


【表1
とろみの強さ
粘度(mPa.s)  
薄いとろみ
50~150
中間のとろみ
150~300
濃いとろみ
300~500
※日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類2013(とろみ)より
※粘度は、プレート型粘度計を用いて、測定温度20℃、せん断速度50sec-1における値とする。



今回、とろみ剤を添加する液体は常温の水とし、とろみの強さに応じた種々のとろみ
液体の粘度を測定しました。

とろみ剤の投入量や調整方法についてはメーカが推奨する手順にならい、使用方法の
概要は以下のとおりです。
なお、攪拌の際は、SVE-1の専用スティックを用いて攪拌しました。

・液体にとろみ剤を投入したら、すぐに攪拌する(30秒程度)
・攪拌してから2~3分放置するととろみがつく


図1~3に、とろみ剤の添加量ごとの結果を図示します。
図中には、それぞれ攪拌中および攪拌後3分放置後の粘度を比較しています。
縦軸は粘度(単位:mPa.s)、横軸は測定時間()です。


            【図1


            【図2


            【図3


いずれの添加量においても、攪拌に伴い粘度が徐々に増加していることがわかります。
このことは、攪拌動作中に流動抵抗が増していく感覚とも一致しています。

また、いずれの添加量においても攪拌後3分放置することで増粘していることから、
メーカの使用方法にあるとおり、時間をおくと、とろみがついていくことがわかります。


添加量の違いごとの粘度値を、図4にまとめました。
添加量の増加に伴って粘度も高くなっており、たしかにとろみが強くなっていることが
わかります。


            【図4


なお、今回SVE-1で測定された粘度はいずれもとろみの分類(表1)で提示されている
粘度より高くなっています。

これは、SVE-1で測定したときの攪拌によるせん断速度(回転数としては約4回転/秒)
と、とろみ分類で規定された粘度のせん断速度条件(50sec-1)が異なるためだと考え
られます。

なお、定められているせん断速度(50sec-1)は、流体食品が、人間の咽喉を流れる
ときの速度を根拠としているようです。

とろみ剤溶液は、いわゆる「非ニュートン」性をしめし、せん断速度の増加に伴って
粘度が減少する性質があります。(図5参照)
攪拌動作は、せん断速度に換算するとおそらく50sec-1よりも低いのではないかと
考えられます。


            【図5】とろみ剤のせん断速度と粘度の関係のイメージ


ところで、とろみ剤でとろみのついた飲み物について、少し時間をおいてから飲む
というケースもあるかと思います。

その際、時間経過によってとろみが変わってしまうようでは、再度調整する必要が生じ、
利便性に欠けるため、とろみは、変わらずに安定していることが望ましいです。

そこで、中間のとろみ(1.8g)に調整した、とろみ剤水溶液について、攪拌直後からの
粘度の経時変化を調べてみました。(6)

この結果では、3, 10, 20分後において粘度はほぼ同等であり、とろみは安定・保持
していることがわかりました。


            【図6


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

このブログでは、「実測シリーズ」として、今後も、測定データを掲載した内容を、
投稿したいと思います。

2019年4月2日火曜日

粘弾性について4)_万物は流転する


粘性や、弾性、物体の流動や変形に関する学問を、Rheology(レオロジー)と呼びます。
呼ばれているところは聞いたことがありませんが、日本語では、「流動学」と呼ばれる
ようです。


紀元前5~6世紀ころの、ギリシアの哲学者、ヘラクレイトスは、
「panta rhei (万物は流転する)」
という言葉を残したそうです。


ニュートンが、ニュートン力学体系を解説した、かの有名な「プリンシピア」の中で、
ニュートンの粘性法則を提起したのが、1687年。

フックは、1678年、著作「復元力についての講義」の中で、フックの法則について論証
し、また同著の中で、フックの法則を、1660年に発見したと記しているようです。

このレオロジーの2大法則の発見から、200年以上のちの、1920年、ユージン ビンガム
は、ヘラクレイトスの言葉に、接尾辞として、学問を意味する「-logy」をつけて、Rheology という造語を作り、学問としての体系化に貢献しました。

ヘラクレイトスは、物体の変形や流動を意味して、「万物は流転する」という言葉を
残したのではないと思いますし、
ニュートンと、フックも、それぞれが発見した法則が、一つの学問のなかで合わさり、
骨子となるとは、思ってもいなかったと思います。


ビンガムが、ヘラクレイトスの言葉から、Rheologyという言葉を作ったのは、おそらく
「万物は流転する」という言葉が、レオロジーの本質をついていたからだと思います。


ある物体が固体なのか、液体なのか、その定義は、専門とされる学問の分野それぞれで、
異なると思います。

レオロジーでは、物体はすべて流体であるという視点にたっています。
つまり、「万物は流転する」です。


例えば、氷河を一目見たいと、観光で訪れ、数時間程度、氷河の観察を堪能しました。
氷ですから当然、カチカチの固体です。観察中、なんの変化もありませんでした。
なぜ、流れもしないものを、「河」と表現しているのか、とも思えてきます。

しかし、実際には、氷河は一年に数メートル程度、流動しているそうです。
10年であれば、数十メートル、流れていくことになります。

もし、目の前に普通の河川があり、ぷかぷかとボールが流れていくさまを、数十メートル
ていど、ぼんやりと目で追っていたとします。
おそらく、その時間は、数秒から、数十秒程度でしょう。

このさまをみて、当然、水は流体、と思うはずです。

数十メートルを、数秒から、数十秒程度で流れるものを、流体と定義し、10年で数十
メートル流れるものは、流体として認めない。

この考え方はアンフェアだ、というのが、レオロジーの立ち位置です。

十年という観測時間が長いのか、短いのか、それは目的や人それぞれです。

例えば、十年で数十メートルに相当するくらい変形してしまうような材料は、ふつう、
工業的な用途には適しません。
そのような目的では、その物質は、流体としてとらえた方が良いわけです。


どのような物体も流動しています。速いか、遅いかの違いだけです。
ただし、速い、遅いの閾(しきい)について、神様は差別をしていません。
それが固体なのか、液体なのかは、その物体が変形した大きさと、それを観測した時間を
比べて、それぞれの目的をもとに、その人の判断で決めてください。

レオロジーでの定義では、このように解釈されます。

これは、緩和(時間)という、物体の挙動を理解する必要がありますが、緩和については
またいずれの機会で説明をしたいと思います。


また、レオロジーでは、時間と温度は等価である、という、ユニークな視点があります。

例えば、どうしても短時間で、氷河の流れを見たい時にどうするか。
熱して水にして、その流れを見れば、氷河が長時間の中でどのように流れていくかが
わかります。

逆に、氷のかたさを、水の状態から知りたい場合はどうするか。
素早く、水の表面を手で打ちつけてみる。

この考え方は、温度-時間換算則と呼ばれますが、これもまた、いずれの機会でとりあげ
させていただければと思います。


過去の投稿
  粘弾性について1)_学校の定期試験を例にとった説明
  粘弾性について2)_固体はかたい、液体はやわらかい?
にて、粘弾性の測定は、液体成分と、固体成分に成分わけされた弾性率の情報から、
かたさとともに、物体が液体的か、固体的かを教えてくれると説明しました。

今回の投稿では、

液体的か、固体的か、は、観測する時間によって変わる。
そして、どんな物体も、長時間の観測のなかでは、流動している(液体成分が支配的に
なる)。
その流動に向かっていく物体の挙動を、緩和と呼ぶ。

ということを説明いたしました。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。